【4.集中的・拡散的思考】議論は広げるだけ広げ、引き戻す
以前、「シックス・センス・リゾート・アンド・スパ」の創業者、ソヌ・シヴダサニと話す機会を得ました。タイやベトナム、スペインなど、各地に最高級の隠れ家的リゾート施設を展開している彼の、オックスフォード大学での専攻はシェークスピア研究でした。
日本的な感覚からすると、「文科系」出身者が、鋭敏なビジネス感覚を駆使してリゾート施設を経営し、世界的に成功するという図はいまいち描きにくいかもしれません。就職に際しても、「理系」「文系」で明確に分類するのが日本の風土だからです。
しかし彼にしてみると、そこにまったく矛盾はないという。なぜなら、大学で学ぶべきことは、「how to argue(議論の仕方)」のみだから。1つの分野で鍛えた知性は、ほかの分野でも応用可能であるといいます。
リゾートをつくるためには、現地の政府と交渉し、デザイン・システムを考え、採算性を考慮し、人材を登用しなくてはなりません。実に、様々な点において知恵を巡らせ、話し合わなくてはならない。そこにどれだけ「how to argue」の技術が必要なことか。
残念ながら、日本の受験勉強や大学においては、「how to argue」が習得されているとは言い難い。たった一つの専攻についての狭い知識のみが重視され、他の分野との議論、アウエー戦には、まったく慣れていないからです。
そもそも、大学3年生から一斉に始まる就職活動、この騒ぎを見るたびに、「この国は集団発狂しているのではないか」とすら思えてきます。春の田植えでもあるまいし、一斉に、しかも新卒のみを躍起になって集める就職戦線は、世界的に見てもまったく珍奇な騒ぎとしか言いようがない。優秀な人材を集めたいならば、そろそろ「新卒プレミアム」的な幻想は捨てたほうが賢明です。そこにまったく合理性は見当たらないのですから。
さて、ビジネスの場における「議論の仕方」には、具体的にはどのようなものがあるでしょう。ポイントは「集中的思考と拡散的思考」です。
企画会議などで、あらかじめ一つのゴールを想定して進行していくことは大切です。しかし、一方では自由奔放に拡散していくベクトルも必要です。
理想的なのは、誰が提案したのかわからないような議題の立て方をして、皆でどんどん意見を出し合う方法です。イメージとしては飲み会での連想ゲーム。最初はまともな議題だったのに、皆でワイワイ話しているうちに、出発点がどこだったかわからなくなるくらい連想が飛躍している。
先ほどの例で言えば、「海の上に船があるとして、インターネット上には何がある?」というところから出発して、「船といってもいろいろあるよね。小さな漁船もあれば、豪華客船もある」「そういう豪華客船が海賊船に襲われた場合にはどうする?」と好き放題拡散していく。
するとそのうちに、ネットの話がいつのまにか「一級船舶免許を取るためにはどうしたらいいか」とか「海賊に出会ったらどうする?」とか、全然違う話になっている。
しかし、広がるだけ広がった議論は、ある地点で今度は収束に向けて引き戻さなくてはなりません。「話を最初に戻そう」と。そうすると「そういえばインターネットにおける海賊ってどういうのがある?」というように、拡散前と収束後の中間地点に、新しいアイデアの切り口が現れてきます。
ある程度意識的に、進行役が操作することも必要です。「今は、拡散フェーズ」「ここからは収束フェーズ」というように。その「拡散と収束」のバランスが大切なのです。