爆発の瞬間を目にすると一時的に失明状態に陥る可能性も
爆風に次いでエネルギーが費やされるのが熱だ。核兵器の炸裂時に生じる火球は、通常の爆薬では生じえない高熱を発し、火球から放出される莫大な赤外線は熱線となって広がり、広範囲の人体に熱傷、また可燃物の火災を引き起こす。また、強い可視光も生じるため、遠い場所でも爆発の瞬間を目にしていると、一時的な失明状態に陥ることもある。一時的とはいえ、運転中に失明すれば命にも関わる。
そして、放射線。核兵器炸裂のエネルギーの15%が放射線として放出されると述べたが、うち5%が中性子線やγ線といった炸裂から1分以内に放出される初期放射線となり、10%が残留放射線となる。初期放射線の被曝による被害は、威力が強力な核兵器では爆風や熱線の方が被害半径が大きいのに対し、小型の核兵器では爆風や熱線より初期放射線による被害半径が大きいという特徴がある。言い換えれば、初期放射線により殺傷を受ける範囲は、核兵器の威力によってもそう変わらない。
では、現実に核兵器が炸裂した場合、どのような被害が生じるのか。スティーブンス工科大学の科学史家、アレックス・ウェラースタイン准教授が公開しているNUKEMAPでは、任意の場所に任意の威力の核兵器を落とし、その被害範囲を表示することができる。
そこで、実際に核兵器が東京で炸裂した場合、どのような被害が生じるかをNUKEMAPを基にシミュレートを行った。条件として、国会議事堂を爆心地とし、2017年に北朝鮮が行った核実験で推定された200キロトンの核兵器が、広島に落ちた原爆と同じ高度600mで炸裂したと設定した。
なお、現実に北朝鮮が配備していると考えられる核弾頭の威力は不明のため、あくまで核実験の推定値を便宜的に当てはめており、どんな被害を狙って落とすかの意図も不明なため、炸裂高度も広島の値を用いたことはご了承いただきたい。また、ここで扱うのは炸裂時の防護についての話であり、炸裂後しばらく時間を置いてからやってくる放射性降下物(フォールアウト)は対象としていない。炸裂時に生き残ってからでないと生じない問題だからだ。
爆心地の周辺にいる人はほぼ助からない
NUKEMAPではさまざまな影響を受ける範囲の表示を指定できるが、命に関わる可能性がある範囲の表示にとどめたところ、シミュレートの結果は次のようになった。円の表示が分かりにくいので、それぞれ分解して説明しよう。
それぞれの同心円の表しているものを説明すると、中心の黄色は核爆発で生じた半径510mの超高温の火球だ。火球の外側にある緑の円は5000レム(50シーベルト)の放射線量を浴びる爆心から半径1.38kmの範囲で、このレベルの被曝を受けた場合は100%死亡する。永田町や赤坂、内幸町、麹町といった地域がこの範囲に含まれる。通常兵器では生じえない、核兵器の恐ろしさの象徴のような存在だ。