「ブログとかSNSで『こりゃうまい』と宣伝してもらえばお金もかかりませんし」
「ふーん、ソーシャルなんとかって、要するに口コミのことか。いちいち小難しく言うなよ」と部長。
「はあ、インターネット上の口コミですね」
「しかし、広告も打てないのに、うちみたいな弱小企業の商品を誰がほめてくれるんだね」
「あ……。じゃあ、まず私が一般客を装って、グルメのブログを作るのはどうでしょう。そこに感想を書けば、ネットで広がるんじゃないでしょうか。早速やってみます」
帰宅するなりキッチンに直行した藤井君は、すぐにスイーツラーメンを食べている様子をデジカメで撮影。顔がばれないように口元から下が写るようにアングルを設定した。「グルメ大王の食事日記」と題したブログの第1回として商品パッケージ片手にピースサインの写真を添え、「スーパーで偶然見つけた新製品。ラーメンとスイーツの不思議な融合。凸凹食品、いいとこに目を付けたね」と感想を書いてできあがりだ。数日後、同期入社のシステム担当の木村君が血相変えて飛んできた。
「ふっ、藤井君、グルメ大王ってもしや……」
「あれ、もうネット界で話題になっちゃってる? 恥ずかしいなぁ、へへ」
「違うよ、首から社員カードぶら下げたまま写真撮ったでしょう? それに、いろいろなネットの掲示板に、おもしろいグルメブログがあるって書き込んだみたいだけど、会社から書き込んだから、IPアドレスが投稿者欄に表示されちゃってるんだ。5ちゃんねるじゃ、うちの社員の自作自演ブログだって笑いもので、ブログ炎上してるよ」
ネットワークはつながっているからこそ、ネットワーク。発言者は簡単に捜し出せる。インターネットの匿名性は幻想と肝に銘じておきたい。
※すべて雑誌掲載当時