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物事を漏れなくダブりなく捉えるには、どのような白地図を用いればいいのか。もっともシンプルで、なおかつ汎用的に使えるのは2軸マップだろう。

家族旅行の持ち物リストを例に説明しよう。何の軸も用いず必要なものを挙げていくのは、単なる思いつきである。自分の関心の高い分野の持ち物は挙げられるかもしれないが、逆に興味のない分野に関しては忘れ物をする可能性が高い。

ひとつにはまず「時間」という軸を立ててみる。「自宅~空港」「機中」「1日目昼」というように場面ごとに持ち物を挙げていけば、それなりに漏れを防ぐことはできる。ただ、自分に必要なものを挙げることができても、家族に必要なものまでは思いいたらない人もいるだろう。

そこで2本目の軸として「人」を立て、「父」「母」「子」と区切ってみる。すると、「母が機中で必要なもの」「子供が海で必要なもの」といった箱ができあがる。このように2軸で考えていけば、盲点だった部分が浮かび上がり、必要なものを具体的にイメージしやすくなる。

漏れを防げるだけではない。ランダムに並べたリストでは作成者の意図がわかりにくいが、2軸でつくったリストなら第三者も共通の基盤の上でディスカッションができる。その結果、特定の箱に持ち物が集中しているのを見て、家族から「運べる荷物には限りがあるので、これは現地で買おう」という提案が出てくるかもしれない。これもフレームワークを使って考えることのメリットだ。

ここでは軸として「時間」と「人」を組み合わせたが、ほかにも「時間」と「衣食住」を組み合わせたり、「時間」×「人」×「衣食住」のように3軸で整理することもできる。いずれにしても複数の軸を使ってアイデア出しをすることで、これまで意識していなかった部分に目が届きやすくなる。

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無秩序な物事を整理する方法としては、4象限マトリックスも有効だ。よく見かけるマトリックスの一つに、仕事を重要度と緊急度で分類したものがある。このマトリックスの目的は、優先順位を判別しにくい仕事群に新たな視点を与えて、より的確にグループ分けすることにある。

大切な仕事については、真っ先に片付けなくてはならないことがわかる。逆に大切でない仕事は後回しでいい。ここまではわざわざマトリックスをつくらなくても、誰でも判断できる。迷うのは、それなりに大切な仕事だ。そこで仕事を「重要度」と「緊急度」という2つの軸で改めて整理してみる。すると、それなりに大切な仕事群は、「重要だが緊急ではない仕事」と、「重要ではないが緊急の仕事」に分けられるはずだ。

この2つはしばしば混同されがちである。そのため未整理のままだと、「部下にはこの仕事を優先して進めてほしかったのに後回しにされてしまった」といった事態を招いてしまう。どちらの仕事を優先すべきかはさておき、4象限マトリックスで整理しておけば両者の混同を防げるし、経験の少ない若い部下にも、なぜこの仕事を優先するのかという理由を説明しやすい。

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4象限マトリックスは、さまざまな場面で活用できる。社員5人の採用枠に、10人の応募があったとしよう。誰が見ても優秀と判断できる応募者は2人しかいない。逆に明らかに能力が足りない人も2人。残りの一長一短の応募者6人から、あと3人を選ばなくてはいけない。このような場合も、自社が重視する条件を2つ挙げてマトリックスを作成すれば選考がしやすくなる。

たとえば「英語力」と「実務経験」のマトリックスで応募者を整理すれば、当落線上にある残りの6人を切り分けることができる。あとは自社の状況に従って、より重視する条件のグループから人を選べばいい。

物事は単純に「誰が見ても◎/誰が見ても×」と分けられるものではない。それでもビジネスでは、何らかの選択を迫られる。4象限マトリックスは、渾然としたグレーゾーンを新たな視点で整理することにより、われわれの決断を助ける汎用性の高いフレームワークといえるだろう。

(構成=村上 敬 撮影=相澤 正)