――あなたは『ロングテール』ではアマゾン・ドット・コム流の「無限の商品棚」、『フリー』ではグーグル流の「無料経済」を浮き彫りにした。今後10年で注目すべき新潮流は何か。
『ロングテール』も『フリー』も主舞台はデジタル経済だった。インターネットの普及によって出版や放送、通信などの業界の〝民主化〟が進み、デジタル経済で革命的な変化が起きた。大企業や政府といった旧来型組織が支配力を失い、逆に一般大衆がブログなどを通じて影響力を高めた。
今後10年の主舞台はデジタル経済ではなく、製造業を中心とした従来型の産業セクターになるとみている。ウェブ上に登場したイノベーションモデルが従来型の産業にも応用され、劇的な変化を引き起こす。わたしはこれを「新産業革命」と呼んでおり、次回作のテーマにする予定だ。
変化の度合いは過去10年を上回るだろう。なぜなら、ウェブは経済全体の一部を占めるにすぎず、ウェブ以外の「非デジタル経済」の比重がはるかに大きいからだ。「新産業革命」で大幅な生産性向上の恩恵を受けるのはIT(情報技術)ではなく、製造業だ。
――製造業でウェブ上のイノベーションモデルが現実に応用され、成功しているケースはあるのか。
わたしが編集長を務める月刊誌「ワイアード」1月号の特集でも取り上げたが、マサチューセッツ州ウェアハムにあるオープンソース型の自動車メーカー、ローカル・モーターズ(LM)が興味深い。LM社では、ウェブ上のサービスであるクラウドソーシング(コミュニティーへの業務委託)によって車をデザインし、やはりクラウドソーシングによって市販の部品を選ぶ。最終的には、顧客自身が「組み立てセンター」で車を組み立てる。
クラウドソーシングを支えるコミュニティーは、単なる自動車愛好家だけでなく、無報酬のボランティアで協力するデザイナーやエンジニアといった専門家がいる。彼らの多くは、専門学校卒業後も就職できずにいたり、就職していても思い通りの仕事をできずに不満を抱いていたりする人材だ。ボランティアとはいっても、実際に自分のデザインが採用してもらえれば、賞金をもらえるため、やりがいも大きい。
デザインはコミュニティーに任せるにしても、車の基本性能や安全性にかかわる車体やエンジンなどはLM社が担当する。メーカーとコミュニティーが協力し、デザイン面で独自性の高い車を少量生産し、大規模生産に特化する大手メーカーと差別化するわけだ。