薬物を接種し続ける動物たちは孤立無援を感じている

かつて頻繁に行われた実験がある。ネズミやサルの頸静脈にカテーテルを留置した状態で檻のなかに閉じ込め、ネズミやサルがレバーを押すと、カテーテルを介してヘロインやコカインがその体内に注入される、という装置(スキナーボックス)を用意する。すると、動物たちは日がな一日レバーを押し続けるようになり、やがてその頻度はエスカレートし、挙げ句に死んでしまう、というものだ。

この実験が、薬物が「脳をハイジャックし、最後は人を死に至らしめる魔物」であることを証明し、厳罰政策や、薬物依存症者をゾンビのように醜悪に描く、差別的な予防啓発を肯定する根拠とされてきた。

しかし、このお粗末な実験を鵜呑みにしてはいけない。檻のなかの動物が死ぬまでレバーを叩くのは、孤独なうえに死ぬほど退屈で、何よりとても窮屈で、そうしたつらさを紛らわせるのに、他にできることがないからなのだ。

それを証明したのが、1970年代終わりに心理学者ブルース・アレキサンダーが行った、有名な「ラットパーク実験」だった。それは、一匹ずつスキナーボックスに閉じ込められたネズミと、多数の仲間と一緒に広々として遊具がたくさんある楽園に置かれたネズミとで、どちらの方がよりたくさんのモルヒネを混ぜた水を消費するのか、という実験だった。

その結果、大量のモルヒネ水を懸命に摂取し消費するのは、檻のなかに閉じ込められた孤独なネズミの方だった。広々とした快適な空間で仲間たちとじゃれ合い、楽しむネズミたちは、不思議とモルヒネ水を消費せず、見向きもしなかったのだ。

人間が覚醒剤に依存してしまう原因も孤立無援にある

ラットパーク実験は、依存症の原因は、薬物の側ではなく、孤独で窮屈な檻の側にある可能性を示唆している。

都会の夜景を眺めている若い女性
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人間だって同じだ。

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