日本でモータースポーツの注目度が低い理由
そうした人間力をベースに快進撃を続けるレッドブルだが、そのなかでぼくは2022年1月、ホンダのF1撤退とともに40年務めたホンダを退社し、自らの会社「MASAコンサルティング・コミュニケーションズ」を立ち上げた。そこでレッドブルの子会社であり、パワーユニットの自主開発を進めるレッドブルパワートレインズ(RBPT)とコンサルティング契約を結び、引き続きF1の世界に深くコミットメントしている。
レッドブルと日本企業との架け橋になりつつ、さらに日本の若くて元気なドライバーを海外へと送り出すための架け橋にもなりたい、と考えているのだ。
その活動のなかで、国内レースの最高峰であるスーパーフォーミュラでTEAM GOHの監督を任される機会にも恵まれた。ぼくが国内レースに携わるのは、2018年にホンダのモータースポーツ部長としてSUPER GTの優勝に貢献して以来、じつに4年ぶりのことだが、実際に新米監督として試行錯誤しつつ感じるのは、やはりF1に比べて日本の国内モータースポーツの注目度の低さは否めない、ということだった。
理由の一つが、コンテンツ自体が有料であるため、それが一部のファンの目にしか触れられないという点だ。これだけインターネットやスマートフォンが普及している時代でも、モータースポーツならではのスピード感を楽しめる一般コンテンツがほぼ皆無と言わざる得ない。
もちろん、サーキットに足を運んでいただき、迫力あるレースを体験していただくのがいちばんだが、まずは配信や放送で多くの人にモータースポーツの魅力を知っていただくための施策として、スーパーフォーミュラでは全ドライバーのマシンにカメラを付け、スマートフォンのアプリで好きな選手のドライビング映像を自由に選べるといった取り組みの準備を始めている。こうした努力が少しずつでも実を結んでいくことを願う。
スター性のある日本人ドライバーの活躍が待たれる
さらには、注目度をあげるためにどうしても必要な存在が、「スター選手」だ。かつてのアイルトン・セナ選手のように、ムーブメントを生み出し、観る人を釘付けにするスター性のあるドライバーを見つけるのは簡単ではないが、幸いなことに現在、日本人で唯一のF1ドライバーである角田裕毅選手はもちろん、F1の下位カテゴリーにも世界で戦える有望な日本人ドライバーが数多く存在する。
ヨーロッパのFIA F2で活躍し、F1へのステップアップまで秒読みと言われる岩佐歩夢選手やTEAM GOHの佐藤蓮選手などだ。いずれもレッドブルとホンダがタッグを組んで若手を育成するプロジェクトのドライバーである。彼らの活躍が日本中に響けば、90年代に起きたF1ブームのように、もう一度モータースポーツが脚光を集めることも不可能ではない。
2021年シーズン、ぼくはレッドブル・ホンダのドライバーズチャンピオン獲得によって、一つの夢を叶えることができた。次の夢は日本人のF1ドライバーがポディウムの頂点に立ち、そこではためく日の丸を見ながら『君が代』を聞く、ということだ。この夢を叶えるために努力を続けることが、これまで応援してくれたファンのみなさんや自らを育ててくれたホンダへの、そして日本という国に自分ができる最高の恩返しだと思っているのである。