大盤振る舞いはさらなる円安を招きかねない

先述のとおり、英国の経常収支は常に赤字だが、構成項目別には財収支が赤字であり、サービス収支が黒字である。つまり英国はマクロ的に、金融を中心とするサービスで稼いだ所得で、不足する財を購入している経済となる。こうした経済にとっては、通貨安であるよりも、通貨高であることのメリットのほうが大きいことは自明だ。

本来ならポンド高誘導を図るべきであるのに、トラス新政権はそれとは真逆の状況を招いてしまったことになる。政策を短期で撤回することは自身の求心力の低下につながるため、トラス新首相は減税を幹とする大型経済対策を進めよう。しかしそれだと「トリプル安」は容易には取り戻せないため、英国の経済はかえって不安定化しそうだ。

日本への教訓としては、やはり減税や補助金といった政府によるインフレ対策には慎重であるべきだという点に尽きる。現在の歴史的な円安は、日米の金融政策の方向の違いが主因だろうが、一方で投機的性格も強く、円安をイメージする材料が出れば円安が加速するという状態でもある。大型のインフレ対策は、格好の円安材料になるはずだ。

ドル、ユーロ、ポンド、円の為替レート
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日本はまだ経常収支は黒字だが、貿易収支は原油価格次第で赤字が定着する状況となっている。したがって、かつてのような実需面からの円買い圧力は存在しない。巨額の公的債務を金融緩和で支える以上、利上げも極めて難しい。そのため世界的な金利上昇局面では円が非常に売られやすいことが、年初来の歴史的な円安で明らかとなった。

岸田政権は9月9日に「物価・賃金・生活総合対策本部」を開き、ガソリン補助金の期限延長や住民税非課税世帯を対象に1世帯5万円の給付を行うなどの追加のインフレ対策を取りまとめた。10月には総合経済対策を発表する方針だが、ここで「大盤振る舞い」をしようものなら、それがさらなる円安を招いてしまいかねない点に注意したい。

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