「事件」は、仕事と旅行を兼ねて親族たちが住む地へ赴くことが、ひょんなことから親族側に漏れ伝わったことで始まりました。気がつけば、祖父、叔父、義理の叔母、従兄弟による、私を囲む食事会が設定されることとなりました。

その鬼門の会をセッティングされた私は、当初うかつにも「あーそういう会があるのかあ」などとぼんやり考えるだけだったのですが、途中で、はたとあることに気がつきました。

「あれ? その囲む会で私は一体何を話せばいいんだろう?」

寿司が並ぶ食卓で、日本酒で乾杯する親族
写真=iStock.com/kuppa_rock
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仕事も、プライベートも話しづらい…

一般的に、職場やその延長線上の飲み会などにおいて、性的マイノリティがプライベートな話をすることができなくて辛い、ということは、さまざまなところで指摘されています。国際労働機関(ILO)も、以下のように言及しています。

差別的な扱いや暴力を恐れ、LGBTの労働者の多くは自身の性的指向を隠します。レズビアンやゲイの回答者は、職場の会話ではパートナーの名前を変えたり、私生活についての話そのものを避けると報告しています。こうしたことは相当の不安につながり、生産性の喪失も招きます。

ただ、職場であれば、プライベートな話を避け、仮にプライベートな話題に及びそうになっても、仕事の話に話題を戻すようにすれば、なんとか事なきを得ることができます。もちろん、それがいかに大変で、神経を使うものであるかは、私自身も身をもって経験してきたところです。

ところが、私のようにLGBTQに関する事柄を仕事にしていて、プライベートでも自身のセクシュアリティが関わるとなると話は変わります。つまり、「仕事」の話をするのも、「プライベート」な話をするのも、両方困難なことになってしまうのです。

しかも今回のようなケースの場合、セクシュアリティが明らかになることによる私への嫌悪感だけでなく、私の両親と親族たちとの間の人間関係にも影響を及ぼすことが考えられます。さらに、人間関係が比較的密な地方では、何かの拍子に、どこまでも話題が広まってしまうことも十分あり得ます。

そもそもアウティング(本人の性のあり方を、同意なく第三者に暴露してしまうこと)という概念自体を知らない、念頭にない人も多いことでしょう(なお、トランスジェンダーの場合は、どのような服装、髪型で出席すればいいのかなどの困難も抱えます)。

「あなたのためにセッティングしたのだから」という善意

実際、この点を両親も懸念していたようです。

両親に「プライベートはもちろん、仕事の話もLGBTQに関わるのだが、私は一体何の話をしたらいいのか」という趣旨のショートメールを送ってみたところ、「両方の話題とも、はぐらかせ」と両親とも返答してきました。