日中韓の企業は海外でどう評価されているのか。駐ミクロネシア連邦大使で過去に在韓国大使館総括公使を務めた道上尚史さんは「ドバイの経営者に話を聞いたところ、『日本のビジネスは窮屈で的が小さい。韓国や中国のほうがやりやすい』と言われた。この現実を日本のビジネスマンは知らなすぎる」という――。(第3回)

※本稿は、道上尚史『韓国の変化 日本の選択 外交官が見た日韓のズレ』(ちくま新書)の一部を再編集したものです。

日没後のドバイの街並み
写真=iStock.com/dblight
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「日本企業はもう自分たちのライバルではない」

ビジネスにおいて韓国が日本をどう見ているのだろうか。エピソードを紹介したい。8年ほど前、サムスン、LGという二大財閥の総帥そうすい自身の口からこんなことを聞いた。

「部下たちは、日本企業はもう自分たちのライバルではないと言います。私はいつもその傲慢ごうまんさを戒めるのです。日本企業は今でも底力がある。10年先を見た技術開発は韓国にないものだと」

これは、日本大使が両財閥幹部を別々に招いた会食でのことだが、はかったように同じ発言があった。二人とも日本での生活経験がある。部下といっても専務・常務を含む重鎮なのであって、「日本企業はもうライバルでない」と感じているのはエリート層の広い範囲に及んでいるのだなと思いつつ話を聞いた。

韓国ビジネスの強さは日本でもよく知られている。積極的な海外展開と現地食い込み。トップダウンの迅速な経営判断。熾烈しれつな社内競争。「売れる」ものを作る工夫と市場調査。食事の席でも、世界各地での投資案件をよく理解し一番悩んでいるのは、トップ自身であろうことがうかがえた。東南アジアやヨーロッパの、中南米やアフリカの国情を、ビジネス折衝の苦労を(具体論は避け一般論の形で)語っていた。

上記総帥の一人は、日本の「10年先を見る」技術力称賛に続け、「でも10年先のことは誰もわからないんです。米国も日本もわからない。いや、技術力は重要なのですが」と付け足した。彼はこう言いたかったのではないかと私は想像する。「技術は重要だが、それはビジネスのいくつかの柱の一つ。日本は技術には比較的強いが、大きな戦略判断とそのスピード、海外での現地食い込みとニーズ把握が弱い。柔軟で大胆な組織改革についてもだ。自分たちのほうが頭と足を使っている」と。