立てない
実家から戻ると、妻は入れ違いで「仕事に行く」という。庄司さんは車で送って行き、ついでに買い物をし、妻のレジに並ぶ。すると、妻は値引きをし忘れ、それを指摘すると別の商品を値引きしてしまい、モタモタ。
庄司さんは仕事終わりの妻を迎えに行くと、「しばらく仕事休みな」と言った。モタモタする様子から、「もしかして頭に異常があるのか? 若年性認知症かも?」と思ったのだ。
総合病院の再診の日、主治医はALS(筋萎縮性側索硬化症)を疑い、妻の腱反射を調べたが、異常なし。また1カ月様子を見ることに。
その頃妻は、家で頻繁におもらしするようになっていた。布団の上で横になっているが、体がだるくてなかなか立ち上がれないらしく、ぎりぎりになってトイレに行こうとするも間に合わず、途中で漏らしてしまう。
当時の妻は、体重80キロ以上。庄司さんや子どもたちは、なかなか立ち上がれないのは太り過ぎのせいだと思っていた。
ある朝、庄司さんが出勤しようと支度をしていると、妻が台所でおしっこを漏らした。時間がなかった庄司さんは、「自分で片付けられる?」と聞くと、妻が「できる」と答えるので、そのまま出勤。
夜、庄司さんが帰宅すると、妻は台所で、素っ裸で転がっていた。妻は、パジャマ代わりに着ていたTシャツを脱ぎ、おしっこを拭いたようだ。
「今思えば明らかに異常ですが、この期に及んでもまだ僕は医師の『異常なし』という言葉を信じていました。家族が今、原因不明の大変な病気になっているという発想がなかったのだと思います。妻はまだ受け答えは普通で、頑張れば自分で立って歩ける状態だったので、僕も子どもたちも、『漏らす前にトイレに行けよ』と思っていました」
庄司さんは妻に介護用パンツを提案。妻は抵抗せず、受け入れた。