中国大使館員が来たら「中指を立てます」

私が見に行った8月の清掃で3回目だという。前出の通り、知人に誘われて来ただけで政治的な考えは持たない(体制への意見はない)年配の在日中国人や、他にブラジルやベトナムなど各国の外国人も多く参加しており、さらに日本人もいるので、客観的に見ればただの「よい活動」である。

8月7日、NHK(左2人)が取材に来ていたが、活動の代表者の男性らがハンドルネームだけを名乗り、顔出し撮影もNGだったことで、日本人母子の参加者に向かう。放送でもこの母子のコメントが使われた。
筆者撮影
8月7日、NHK(左2人)が取材に来ていたが、活動の代表者の男性らがハンドルネームだけを名乗り、顔出し撮影もNGだったことで、日本人母子の参加者に向かう。放送でもこの母子のコメントが使われた。

だが、ここまで目立っていて大手メディアも取材に来ているなら、そう遠くない将来に中国大使館から『協力』を申し出られ、中華民族の優秀な美徳を体現する在日華人同胞としてプロパガンダに使われるのではないだろうか。清掃の終了後、中心メンバーの2人に、活動の場に大使館員が来たらどうするかを尋ねたところ、以下のように即答された。

「めちゃくちゃ罵倒します」
「中指を立てます」

本来の動機と主催者の心情はさわやかではないはずだが、結果的にはさわやかな活動がおこなわれている江戸川のカキ殻清掃作戦。今後も月に1回程度のペースで続けていくとのことである。

中国のことを「支那」と呼ぶ中国人たち

今回の彼らのような「支黒」系のネットユーザーは、ネタ半分本気半分という形ながら、“中国人をヘイトする中国人”という特殊なポジションの人々である。近年の中国のネット空間では、反中国的な言説に必ず噛みつき過激な反米・反日的言説を振りまく「小粉紅」(xiǎo fěn hóng)と呼ばれる中国版のネット右翼が主流のネット民意を形成しており、「支黒」はこれに対する戯画的なカウンターという立場だ。

なお、中国の反体制的かつ不謹慎系のネットユーザーは、中華人民共和国のことを故意に「支那」、中国人民を「支那人」、中国共産党を「支共」(=支那共産党)などというネットスラングで呼ぶ。

言うまでもなく、「支那」は第二次大戦までの日本側からの中国の呼称で、現代中国では最大の罵倒語だとみなされている。だが、それゆえにゼロ年代から香港や台湾の反中国系ネット文化のなかでしばしば使われ、やがて大陸の中国人にも伝播した。「支黒」という単語も、「支那」を「抹黒」(mǒ hēi;泥を塗る)するといった意味のスラングだ。

彼らの一部が、中国国内のネット上の愛国的・反民主主義的な言説を日本語や英語に翻訳して晒す「大翻訳運動」という行為を現在も行っているのだが、この運動にも「支黒」のカルチャーが強く反映されている。

2019年10月1日、抗議デモが暴徒化した時期の香港島の中国建設銀行店舗。香港デモの過激派は不謹慎系のネットカルチャーとの親和性が強く、中国資本の商店破壊や写真のような落書きをしばしばおこなった。
筆者撮影
2019年10月1日、抗議デモが暴徒化した時期の香港島の中国建設銀行店舗。香港デモの過激派は不謹慎系のネットカルチャーとの親和性が強く、中国資本の商店破壊や写真のような落書きをしばしばおこなった。

「支黒」の場合は、民族的には同じ相手を「支那」呼ばわりしているので、厳密にはヘイトスピーチと呼べるか微妙なのだが、日本語で彼らの意見を読むとぎょっとするのも確かだ。いっぽう、リアルの本人たちはお行儀よく清掃活動をおこなっていたりもする。なんとも、現時点では評価の難しい人たちではある。

【関連記事】
元海自特殊部隊員が語る「中国が尖閣諸島に手を出せない理由」
頭のいい人はそう答えない…「頭の悪い人」が会話の最初の5秒によく使う話し方
「どんな人なのかが一発でわかる」銀座のママが初対面で必ず確認する"身体の部位"
「間違えたんだから、責任を取れ」オペレーターに詰め寄るモンスター客に上司が放った"爽快なひと言"
「世界一の技術が日本にある」太陽光や洋上風力より期待が大きい"あるエネルギー源"