私が好きなのは「信念と希望にあふれ勇気にみちて日に新たな活動をつづけるかぎり 青春は永遠にその人のものである」というくだり。ユーグレナは創業して18年、上場して11年経ちました。それでも新たな挑戦を続けるかぎり、一生ベンチャーだと胸を張っていい。過去に執着することなく毎日新しくスタートしなさいと教えられているようで、気持ちが奮い立ちます。

自然と宇宙というスケールでとらえる

私はこの言葉に勇気づけられていますが、幸之助翁の言葉全体を見まわすと、個人を励ましたり元気づけることに主眼を置いたものは多くありません。自立している人や責任ある立場の人に向けて、戒めの言葉を厳しく投げかけていることがほとんどです。

これは視座が異なるからでしょう。幸之助翁は、会社、社会、国家を幸せにするためにはどうすればよいかを常に考え続けてきました。物事を自然や宇宙というスケールでとらえていて、人間が1人の力で何かを成し遂げようとするのは傲慢だと考えています。

その姿勢を象徴しているのが「衆知」です。幸之助翁は個人をないがしろにしているわけではありません。ただ、一つ一つの力は小さいので、みんなで知恵を集めることを重視しました。幸之助翁はそれを「衆知」と表現して、事あるごとに口にしていました。今を生きる経営者は、衆知の重要性を強く感じているはずです。

私は人のネガティブな面が目に入りません。仮に本人が短所だと思っている点があっても、私の目には「最高! 素晴らしい!」と長所に映ります。人をそのようにとらえるのは、人格が優れているからでも達観しているからでもありません。一見ネガティブに見える点があっても、いずれそれが生きる場面がくるからです。

昨日も今日も同じ毎日が続く時代なら、短所は明日も短所のままであり、「ここは直したほうがいい」という指導も効果的だったでしょう。しかし、今はVUCA(将来の予測が困難な状況)の時代です。今日には短所と思ったものが明日には長所になることもありえます。時代の大混乱期に、人を教育する発想は古い。大切なのは、一人一人違うところをポジティブにとらえ、それを結集すること。まさに衆知が求められるのです。

幸之助翁が生きた昭和の工業化社会は、みんなが貧しく、人々の価値観が比較的揃っていました。明日は今日の延長であり、欠点を矯正する発想にも意味がありました。そのような時代においても衆知の大切さを説いた幸之助翁は、やはり抜きん出た経営者だったと思います。では、大勢の人たちの力を結集するために、言葉をどのように使えばいいのか。参考になるのは、有名な「熱海会談」です。