筋肉量の低下は生活習慣病リスクも上げる

逆に、動かない生活が続いて筋肉を使わないと筋線維は細くなり、しっかり収縮できなくなっていきます。この状態が続くと、筋肉の質が低下して、細く弱くなった筋線維は体を支えられなくなってしまいます。同時に筋肉を支配する神経系も衰えます。

これがサルコペニアです。サルコペニアやロコモ、フレイルによって、立ったり歩いたりする移動機能が低下すると、日常生活に様々な支障をきたします。転倒リスクが高くなる、階段の昇降が不自由になる、荷物が持てない、体を思うようにコントロールできないことで、家から出るのが嫌になり、引きこもりがちにもなります。

また、筋肉量の低下に伴って基礎代謝も下がるので、肥満や内臓脂肪量の増加が起こりやすくなり、生活習慣病にかかるリスクも高まります。

一方、筋肉が維持されていると、免疫機構も高まることが期待されます。高齢者の死因の上位を占める「肺炎」も、筋肉量がある人の方が細菌感染に強く、感染しても炎症の度合いが低く、肺炎になりにくいのです。外科手術をしたときも、術後の回復力は筋肉量がある人の方が高いといわれます。

筋肉は脳からの命令で動くわけですから、筋肉を維持して使うことは、筋肉から脳へのフィードバックにより脳を活性化させる脳筋相関の機能もあると考えています。

また、エビデンスはまだ少ないのですが、筋肉を使うことは「動脈硬化」にいい影響があります。「糖尿病」については、筋肉を使うことでインスリンの量を増やさなくても筋肉内への糖の取り込みができることが実証されているので、動脈硬化に対しても間違いなく好影響は出ています。筋肉が体に与えるメリットはとても多面的なのです。

年を取ると筋肉の萎縮は戻りにくい

サルコペニアが起きていないかどうか、一般的な診断は、年齢や握力、歩行速度、筋肉量をもとに行われます。頻繁につまずいたり、立ち上がるときに手をついたりするようになると、症状がかなり進んでいると見ることができます。

急激に筋肉が衰えてくるのは60歳を過ぎたあたりからですが、サルコペニアは25~30歳から始まって生涯を通して進行するので若年期からの運動が必要です。

骨や筋肉の元気な若い世代では、体を動かす骨格筋はケガをしてもちゃんと治ります。骨を折ったときにギプスをすると筋肉はかなり萎縮しますが、治療を終えてギプスを外すと元の筋肉サイズに戻っていきます。

ところが、年齢とともに骨格筋のケガは治りにくくなりますし、一度筋肉が萎縮するとなかなか元に戻りません。若い頃と比べて戻りづらくなっているのです。筋肉がケガをして治っていく過程で、筋肉内が脂肪化したり線維化したりする現象によると考えられます。

よくあるのは、高齢者が骨折や病気で手術をして1~2週間、ずっとベッドで休んでいたら、そのまま寝たきりになってしまうケースです。そこで、元の生活レベルに戻れる筋肉の回復方法を考えなくてはいけないということが、今、様々な医療機関や介護施設でいわれるようになりました。つまり、術後すぐから体を動かしリハビリを行うこと、自宅で療養している人も、できる限り日常生活をこなし、少し大変でも運動することが非常に重要になってきます。