(1)水滸伝 岩波少年文庫版
施耐 庵

水滸伝では駒田信二訳が好みだが手に入りにくい。一般向けに勧めたいのがこの岩波少年文庫版だ。何より訳がきちんとしており、挿絵もいい。

(2)関西赤貧古本道
山本善行

本好きの人が書いた本はおもしろい。個人的には本好きが書いた本というジャンルがあってもよいと思う。これは人はこのようにして本が好きになるのかとわかる一冊。

(3)私が殺した少女
原 りょう

(4)深夜プラス1
ギャビン・ライアル

日本人の手になるハードボイルド・ミステリの最良作を(3)とすれば、(4)は海外のそれ。日本でもこの作品に感化された人は多いのではないか。

(5)遠い海から来たCOO
景山民夫

(6)時の声
J・G・バラード

同じく日本人の手になるSF作品のお勧めが(5)とすれば、海外のものでは(6)。バラードの作品はいずれも破滅的だが、これがいちばん破滅的だ。意味を持たせず、からっと悲惨に破滅するのがいい。

(7)鴨川ホルモー
万城目 学

よくこんな設定やストーリーを思いつくと、思わず感心する作品は漫画には多いが、小説ではこれが一押し。読み進むうちにだんだんと作者の世界観が浮かび上がる。ある種、広告的なクリエーティビティすら感じさせる作品だ。

(8)1492 西欧文明の世界支配
ジャック・アタリ

(9)ザ・フィフティーズ
デイヴィッド・ハルバースタム

グローバルヒストリーのはしりといえる良書が(8)、同じ歴史学関連の著作の中でも(9)は論理的なグラフィティーといえる作品。憧れのアメリカがもっとも輝いている時代を描いたノンフィクション文学といってもいい。全人類でもっとも幸せなときというのはアメリカの1950年代ではないか。経済がどんどん伸び、まだ道徳観がきちんとしていて、テレビはないわけでもない。これからの若者が腹を決めて社会をリードするようになるには、まずはアメリカの50年代のような明るい時代の話に文章で触れるのがよいと思う。

(10)特命全権大使 米欧回覧実記 普及版 慶應義塾大学出版会
久米邦武編著 水沢 周訳注

アメリカ編、イギリス編、ヨーロッパ編3巻の全5巻からなるので、好きな巻から読むとよい。岩倉具視使節団の随行者による最高の「出張報告書」だ。超優秀なビジネス文書の書き方を学びたいビジネスマンにもお勧めしたい。岩波文庫のものは原典にあたりたいときのむしろプロ向け。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 市来朋久、佐粧俊之=撮影)