空前の「コストプッシュ圧力」が立ちはだかった

米EVメーカー、テスラCEOのイーロン・マスク氏はツイッター買収を撤回した。表向きの理由は、偽アカウントの数が正確に把握できないことだ。しかし、本当のところは、株価が不安定化したことで先行きの事業計画が不透明になったことがありそうだ。

米実業家イーロン・マスク氏
写真=AFP PHOTO/TED CONFERENCES/Ryan LASH/時事通信フォト
米実業家イーロン・マスク氏

ウクライナ危機などの影響も大きい。エネルギー価格の上昇、名地によるコストプッシュ圧力は、世界各国企業にとって最大の脅威と化している。買収後にマスク氏が事業計画を実行し、想定された成果をあげることは難しくなった。

別の視点から考えると、マスク氏は世の中の急変を感じとった。アニマルスピリットにあふれるマスク氏でさえ、大きなリスクテイクが難しくなった。それほど、世界経済は急激に変化している。

買収撤回の結果として、マスク氏の信義則に問題があることが確認された。トップは“社会の公器”として企業の事業運営に臨まなければならない。今回の買収では、その点が徹底されなかった。今後、世界全体でインフレが進行するだろう。IT先端分野では、コスト削減に取り組む企業が急増する。規制も強化される。その中でマスク氏がどのようにテスラなどの成長を実現するかが注目される。

6兆円規模の超大型買収→3カ月で撤回

4月25日にマスク氏はツイッターの買収を発表した。そのポイントは、かなりの規模と高値での買収だったことだ。大きな負担を背負ったとしてもツイッターの競争力を向上させることはできる。それが当初のマスク氏の目論見だった。

買収の概要は次の通りだ。買収総額は440億ドル(1ドル=136円換算で約5兆9840億円)だ。うち255億ドル程度が借入資金だ。買収によって、既存のツイッター株主は1株当たり54.20ドルを受け取るとされた。プレミアム(上乗せ価格)は前営業日(4月22日)の終値対比で10%、3月末対比で40%だ。買収によってツイッターは非上場化される予定だった。

買収に際して、マスク氏は次のような事業運営を計画しただろう。まず、人員削減などコストカットを徹底して進める。近年のツイッターはフェイクニュースやヘイトスピーチの摘発に集中せざるを得なかった。同社は、人海戦術で取り締まりを強化した。その結果として、コストが増えた。事業運営の効率性は低下した。さらに、ウクライナ危機の発生がコストプッシュ圧力を強めた。