タレーランの理念に支配されたウィーン会議
理念のある者とない者が交渉した場合、理念のある者のペースになりがちである――。
ここで言う理念とは、筋の通った考え方とか納得がゆく理屈と考えても、あるいはもっと高次元の思想や信仰と考えてもいいかと思います。どのようなテーマの交渉ごとであっても、明確な理念が示せる側が有利であるということです。
ナポレオンが敗退した後で開催されたウィーン会議のフランス代表、タレーランの正統主義を思い出してください。
「いま必要なことは、すべてをフランス革命以前のヨーロッパに戻すことである」
このタレーランの理念に、ウィーン会議の参加国はみんな説得されてしまいました。ヨーロッパを血で染めたナポレオン戦争の震源地であったフランスが何ひとつ失うことなく、ヨーロッパは王政復古してウィーン会議は終わりました。タレーランの主張は彼の理念であったのか、フランスの国土を守るための方便にすぎなかったのか。
いずれにしても人間は、どのような場合であっても筋の通った理念で一貫して主張されると、ついつい納得してしまいがちなのです。マクロンの『革命』(ポプラ社)を読むとそのことがよく分かります。
戦争の歴史から学べる「理念と順序の大切さ」
ヨーロッパの各国は昔から、さほど広くない大陸にひしめきあいながら競い合い、外交戦術や交渉技術を高めてきました。その知恵をアジアやアフリカを侵略するのに、役立ててきました。
理念は僕たちの日常の仕事の上でも、必要不可欠です。そのとき、何を言うべきかは大切ですが、それと同時に何を言わないでおくかも重要なことです。そして言うべきことの順序も考える必要があると思います。
囲碁や将棋の世界には「手順前後」という言葉があります。いかに有効な攻撃方法であっても、打つ手の順番を間違えると意味をなさない、という意味です。いずれにせよ、いかなる交渉ごとにおいても自分の理念を持つことは交渉ごとの必須条件であると考えてください。