最大の問題は、経済の発展が卒業生の増加に追いついていない点だ。チャイナ・ファイルは「中国は長年、不均衡な就職市場を抱えてきた」と述べ、高学歴者の受け皿となる就職口が決定的に不足していると指摘している。
ゼロコロナ政策を評価する豪紙
一方で、「ゼロコロナ政策がかえって中国経済を活性化させる」と指摘する海外メディアも存在する。ゼロコロナに固執する裏で、意外な政策転換が始まっているのだという。
例えば、豪シドニー・モーニング・ヘラルド紙だ。
毛沢東時代以前から続く古い制度として、厳格な戸籍制度がある。農村戸籍をもって生まれた者は、原則として都市部で財産を築いたり、都会の学校教育や医療給付金などのサービスを受けたりすることができないしくみだ。
これは長年、貧しい農村部の出身者が都市部に流入する事態を防ぎ、スラム化を予防する政策として機能してきた。だが近年では、農村からの出稼ぎ労働者が生活不安から貯蓄を重視するなど、消費を押し下げる効果があるとして問題視されるようになっている。
同紙はコロナの混乱に乗じる形で、中国共産党がこの規制を徐々に緩和していると報じている。江西省や山東省を皮切りに、複数の地域で出稼ぎ労働者の「外国人扱い」を改めているという。農村出身者であっても、特別な許可なく都市部の学校に通い、都会のマンションを購入するなどが可能になるという。
同紙はこれまで中国が、国家の集まりであるEUのようなつながりであったと例えている。これを州の集まりであるアメリカのように変革し、労働人口の流通をよりスムーズにする効果が期待されているという。
シドニー大学中国研究所のローレン・ジョンストン准教授はヘラルド紙に対し、中国には昔から「燃えている家から略奪せよ」との格言があると説明している。混乱のさなかであれば、最も改革への抵抗が少ないという意味のようだ。ゼロコロナ政策による混乱が、以前から懸案であった戸籍制度を改革するための隠れみのになったようだ。
米誌「極端な政策は独裁政治の産物だ」
少なくとも現状をみる限り、ゼロコロナ政策全体としては経済にマイナス効果をもたらしていると考えるのが自然だ。
米アトランティック誌は、「中国共産党政権はいつだって残忍だったが、少なくとも予測可能であり、それなりの方法で現実的であった。もはやそうではない」と断じている。
多くの途上国が政治的混乱に陥るなか、中国共産党は少なくとも安定した政治情勢を強みとしてきた。しかしゼロコロナ政策をめぐってはトップレベルの指導者を招集した会議の場でさえ、経済界の重鎮から批判の声が上がるなど、統率の乱れが目立つ。