安倍氏の悲願、憲法改正には消極的

参院選で自民、公明、日本維新の会、国民民主党の改憲4党が発議に必要な3分の2を確保した以上、安倍氏の悲願である憲法改正に突き進むのか――。実は麻生氏や岸田首相に近い宏池会や財務省からはそのような声はほとんど聞こえてこない。

「2025年まで国政選挙が予定されていない『黄金の3年間』に入ります。せっかくの時期に憲法改正に手をつけると、岸田政権は全エネルギーを改憲4党で具体的な改憲案を合意することに注いで消耗するでしょう。発議に持ち込めても国民投票で勝つ保証はない。国民投票で否決されたら内閣総辞職は避けられません。そのようなリスクを背負い、改憲の成否と心中するつもりは麻生氏にも岸田首相にもありませんよ」(財務省OB)

参院選で改憲を掲げたのは安倍氏の顔を立てたにすぎない。もはやその必要がない以上、「黄金の3年間」を改憲論議に費消するのはもったいない――というわけだ。

2009年1月31日、WEFでの麻生太郎首相(当時)(写真=World Economic Forum/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons)
2009年1月31日、WEFでの麻生太郎首相(当時)(写真=World Economic Forum/CC-BY-SA-2.0/Wikimedia Commons

麻生氏が改憲論議に消極的なのには政局的な意味もある。憲法改正の発議には衆参両院の3分の2以上の賛成が必要で、自公与党だけでは不可能だ。改憲を政権の最優先課題に掲げたとたん、維新と国民の両党に協力をお願いし、事実上の与党として遇しなければならない。維新や国民はそれを狙って改憲論議を訴えている。その誘いに乗らず、改憲にさえ手を出さなければ、気を遣うのは連立相手の公明党だけでいい。

「麻生氏は維新が大嫌いです。小泉政権で激しく対立した竹中平蔵氏の影響を受けていることも気に食わないし、安倍政権で対立した菅義偉前首相と松井一郎代表がじっこんであることも不愉快です。維新は存在感を増すために改憲論議を声高に訴えるでしょうが、そうなればなるほど、麻生氏は『わざわざ維新に花を持たせて居場所をつくってやることはない』と改憲論議から引くでしょう」(財務省OB)

改憲をあきらめることにはもうひとつメリットがある。公明党の顔を立てることだ。

「岸田政権の最重要課題があるんです」

公明党の山口那津男代表は参院選投開票日の夜、憲法改正について「憲法を変えなければ(自衛隊が)仕事ができないという状況ではない。憲法9条1項、2項は変える必要ない。むしろ、自衛権の限界を画するものとして重要な規定である」と早くもクギを刺した。

公明党は安倍政権下で集団的自衛権などをめぐり大幅な譲歩を重ねており、支持基盤である創価学会員には不満が募っている。改憲だけは絶対に阻止したいのが本音だ。