穴掘りトイレはせいぜい1日15人分が限界だが…
当時は災害用の「携帯トイレ」がなかったので、やむを得ずごみ袋と新聞紙などに用を足した。
この「簡易便袋」はごみ収集が始まるまで保管し、他のごみと一緒に焼却処理されるのだが、収集時に袋が破れて作業員に便がついたり、収集車(パッカー車)の中が便だらけになったりといろいろと問題が生じた。
使用済みの携帯トイレを収集する場合は、一般のごみとは区別して、パッカー車ではなく平ボディのトラックで集めたほうがよい。
また、現地では穴を掘ったトイレの痕跡をあちこちで見た。穴の上に家屋の廃材を使って立派なトイレを建てた例もあった。しかしこうした「穴掘りトイレ」はほとんど役に立たなかった。穴を掘ってバケツやペール缶を埋めて使っても、バケツやペール缶の容量はせいぜい20Lなので、1日に15人も使えない計算になる。
現場で一番感心したのは、道路のマンホールの上につくられたトイレだ。「マンホールトイレ」はこの話を伝えた神戸市が学校に取り入れたことがきっかけとなって、各地の学校や防災公園など全国に広がっていった。
「洋式トイレ」でないと困る人もいる
現場で感じたことのもうひとつは、高齢者や体の不自由な人にとっては、仮設トイレだけでなく学校のトイレも非常に使いにくかったということだ。
現在では、仮設トイレにも洋式のものが増えているが、元々は工事現場などで使うことが想定されているので、仮設トイレはまだ和式が一般的である。和式トイレを使う機会の少ない最近の若い人たちや子どもにとっては、災害時でも洋式トイレのニーズが高い。
対策としては避難所となる学校や施設のトイレを洋式化しておくことだ。当時は学校に洋式トイレはあまり普及していなかったので、水を確保できた場合でも洋式トイレのニーズに対応するために、「ポータブルトイレ」(持ち運び可能な簡易型トイレ)を使っていたところもあった。
マンションのトイレ問題もこのときはじめて顕在化した。建物に被害が見えなかったマンションでも、下水道の排水管が破損しており、「通水したのでトイレを使い始めたら、1階のトイレや風呂場から汚水が噴き出してきた」という話を聞いた。
十分な点検をしたあとでなければトイレは使わないほうがよい。そのため、戸建て住宅よりマンションのほうが点検に要する時間がかかることを考えておいたほうがよい。