偏差値48から一発逆転させた父親がよく言っていた言葉

距離を置き、意識を変える。親自身がこの2つを実践し、偏差値48から慶応義塾普通部に合格した“一発逆転ケース”を紹介しよう。この両親は、“ゴール”を合格に設定せず、よい距離で“伴走”したことが功を奏した。

当時、私立小学校に通っていた6年生のタケル君(仮名)は、成績が芳しくなく、6年生の8月時点でSAPIX偏差値が48。6年生最後の模試では合格率20%のE判定だった。西村さんが最初に会った6年生の8月時点のタケル君の第一印象は、「ポテンシャルはあるものの、嫌なことは絶対にしない、いわゆる“わがまま”タイプ」。塾に行くことも宿題をやることにも前向きではなかったという。

両親は、伸び悩む偏差値に頭を抱え、西村さんに家庭教師を依頼した。ある時、父親がタケル君の通う私立小学校が「大量演習・繰り返し学習」の指導方針であることに、不満をポロリ。西村さんはその声を拾い、こう話した。

「お父さんの見方は正しいです。タケル君の将来を考えた場合、繰り返し学習がいいわけありません。なぜなら中学校に入って伸びる子は、自分の学習を自分でコントロールでき、“なぜか?”に常に意識が向いている子だからです。そうした知的好奇心をつぶす方向に指導している小学校に不満を持たれるのは当然のことです」

西村さんからのこの言葉で、タケル君の父親は、受験は“合格”だけが目的ではなく、受験過程において“考える習慣”をつけていくことが必要だと確信。その後、タケル君の両親は、偏差値の変動は口にしなくなった。

できないことばかりを責めていた母親も、徐々にできないことは無視できるほどの“精神的距離感”を保てるようになったそうだ。西村さんはこう振り返る。

「父親は、中学受験はゴールまでの一過程にすぎないと認識を改め、『合格だけが目標ではない』と話すようになりました。これは大きな進歩です。

そして、タケル君が一向に勉強をしたがらなくても、『うちの子ならいずれはがんばってくれるはず』と信頼していました。父親のこうした信頼感があったからこそ、父親の子供を見る目が穏やかになり、タケル君は安心して勉強に集中できるようになったのでしょう。

私たちも内心かなりヒヤヒヤしましたが、ある問題が解けた瞬間、『すごい。この問題が解けたら大したもんだ』などと要所要所でほめて、自信を持たせました」

親からの信頼感に自信も加わり、タケル君は本番試験の2週間前にやる気を出し、人が変わったように勉強を始めた。この2週間は食事時間も惜しんで机に向かった。そして急激にモチベーションが出て、集中力を発揮。SAPIX偏差値59の慶応義塾普通部に見事合格を果たしたという。

神奈川県横浜市港北区日吉にある慶應義塾普通部
神奈川県横浜市港北区日吉にある慶應義塾普通部(写真=塾生/CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons

「合格を目指しながらも、勉強をしていく過程でどういう能力を身に付けてほしいのか、どういう人間になってほしいのか。受験過程における目標、目的をしっかりもたないと、『合格させるための中学受験』になり、偏差値に一喜一憂しやすくなります。タケル君の父親は、一時期この目標がぶれていましたが、受験半年前に『中学受験は単なる途中経過にすぎない』と気づいたことが、勝因となりました」

合格後にタケル君の父親は、西村さんにこう話したという。

「もともと中学受験は人生のチャレンジとして、何かに全力でぶつかる経験をしてほしい、ということを最終目標としていました。ですからここまでこられれば本望だと思っていました。いま、結果も伴い、思い残すことはありません」

自分は子供とほどよい伴走ができているか。ゴールをどこに見据えているのか。今、改めて考えてみたい。

【関連記事】
超お買い得…「偏差値50台なのに」東大・京大含む国公立大に最大6割が受かる中高一貫校ランキング50
「親が理数系に強いかは関係ない」中学受験で算数が得意な子が"幼少期”にやっていたこと
「お金をかけなくても学力は伸びる」高学歴家庭の会話によく登場する"接続詞"2つ
"全米最優秀女子高生"を育てた母が実践した「子どもを否定せずに間違いを正す」スゴい声かけ
「ピアノやバイオリンはやめても、これだけは続けたほうがいい」東大生の母がそう主張する習い事