“自分が診る病気じゃない”と思っている医師は多い

會田は週に何日か、神奈川県調整本部の業務も担っている。コロナ臨時病棟で働いている時は神奈川県調整本部から新規入院依頼がくるわけだが、その逆パターン、つまり會田が神奈川県調整本部の側から各医療機関にコロナ患者の入院をお願いする。その業務を担っていると、どの病院もすべてのベッドを稼働させるだけのマンパワーが足りていないとひしひしと感じるという。

「確実にくる第6波のために看護師を確保してくださいと僕たちは県に訴え、ここでも先月末から派遣のナースに研修を行い、いざという時に備える予定でした。しかし思いのほか、その波が早く、圧倒的に感染者が増加したため研修を行えませんでした。今となっては、もっと早くから診る人間、医療従事者を確保しておくべきだったと思いますが……。一方でコロナがまだ“自分たちが診る病気じゃない”と思っている医師はたくさんいるはず」

ERとコロナ臨時病棟の掛け持ちをする関根一朗は、コロナをきっかけに弱り死亡した90代男性患者を前に涙した。その理由を問うと、「なんでしょうね……」と、珍しく言いよどむ。

患者だけでなく、家族のケアまで行き届かないもどかしさ

「すべての人に良い医療を提供するために日々がんばっています。でも個々の事例を振り返ると、あれはベストな対応だったのか、と感じる積み重ねが今年の1月、2月ではありました。たとえばERでコロナと診断された人がいて隔離される。そのまま隣の敷地にある臨時病棟に入院になる。でも他にも患者さんがいっぱいいて、気づいたら家族を待たせすぎていて、本人の姿を見せることなく入院させてしまったり……。

90代の患者さんのケースも、ご家族にとってそれが最後に目にする姿だったんです。それから、入院して数日経たないと経過がわからないので、家族にはしばらくしてから連絡するのですが、細かい説明をしないために、数日間すごく不安にさせてしまったこともありました」

患者数急増により、今までやってきた対応ができていないのではないか、と不安に思っている。だから仲間にも普段ならできる指摘が言えない。

「看護師さんに対して“こういう看護をしてほしい”という思いがあっても、それを口にしていいのかわからない。疲弊している人にさらに要求することが正しいのかどうか悩むんです。正しいと思ってきたことも、これほどの業務量で長期的なスパンであることから考えれば、配慮が必要なのかなと……診療に対して、また仲間に対して感じる葛藤が自分を追い詰めた気がします」