映画『シンドラーのリスト』(1993年)はナチスドイツによるユダヤ人の大量虐殺を描いている。KADOKAWAエグゼクティブプロデューサーの馬庭教二さんは「大衆向けの娯楽映画に過ぎないという評価もあるが、加害者側の心理的葛藤に真正面から向き合っている点で画期的な作品だ」という――。

※本稿は、馬庭教二『ナチス映画史 ヒトラーと戦争はどう描かれてきたのか』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

アウシュヴィッツ強制収容所
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ユダヤ人の救出に私財を投じた実在の人物

『シンドラーのリスト』(スティーヴン・スピルバーグ 1993年米)は、強制収容所を舞台とした映画、ヒトラー・ナチス映画の代表作と言っていい大作である。

ウクライナ系ユダヤ人であるスピルバーグ監督が念願のオスカー作品賞、監督賞を、その他脚色、撮影など計7部門を受賞した。195分。

チェコ出身のドイツ人実業家オスカー・シンドラー(リーアム・ニーソン)を軸に、深い関わりを持ったナチ将校と、シンドラーが守ろうとしたユダヤ人たちの戦時下の姿を描いた作品である。

シンドラーは1908年、オーストリア゠ハンガリー二重帝国、現チェコのメーレン地方に生まれた実在の人物で、ドイツ軍から利権を得て大金を掴みながら、戦時下、その金をユダヤ人救出の買収工作につぎ込んで無一文となり、戦後は自身が救ったユダヤ人たちの庇護を受けて暮らし、1974年西独北部ヒルデスハイムで亡くなった。

3時間の長編だが、時系列に物語を追ってみよう。

映画はナチ党員だった彼が、1939年、第二次大戦が始まるやポーランド南部の古都クラクフに赴き、ナチス幹部に取り入ろうとするところから始まる。

1941年、シンドラーはドイツ軍に独占的に食器を提供する「ドイツホウロウ容器工場」を設立し、有能な金庫番でユダヤ人のイザック・シュターン(ベン・キングズレー)を重用、馴染みのユダヤ人も工場で雇い入れ、やがてその人数は数名から数十名、数百名へと次第に増えていく。