現在のように需給が逼迫している状況下では、スポット契約価格は急騰し、長期契約価格は徐々に上昇していく。その結果、最近では、長期契約分とスポット契約分の加重平均である日本のLNGの平均輸入価格は、スポット価格よりかなり低水準で推移している。
LNG調達におけるスポット契約の比率の差(19年で日本は13%、ヨーロッパは33%)が、ガス・電気料金の上昇率の差につながっているわけだ。調達先の変更にとどまらず、調達契約の変更(長期契約からスポット契約への変更)をともなう天然ガスの脱ロシア化は、日本にとっては大幅なエネルギーコストの上昇、すなわち電気代の高騰につながりかねない。
日本で当面、頼りになるのは石炭火力
このようにロシアのウクライナ侵略が加速させた「エネルギー危機」は、すぐれて「天然ガス危機」の性格を有している。日本の場合、この「天然ガス危機」は、短・中期的には代替財としての石炭の価値を高めることになるだろう。
もちろん、ウクライナ危機の最大の教訓はエネルギー自給率を高めることの重要性であるから、根本的な解決策が「究極の国産エネルギー」である再生可能エネルギーの大規模導入にあることは言うまでもない。しかし、再生エネの大規模導入には時間がかかるから、それまでのあいだは既存の資産でつないでいくしかない。「天然ガス危機」が深刻化する状況下では、代表的な既存資産は、原子力発電所と石炭火力発電所ということになる。
ところがわが国では、原子力発電は、きわめて心もとない状況にある。そもそも、2021年の日本の電源構成に占める原子力の比率は6%にとどまる。そのうえ、ウクライナ危機後、2022年の原発廃止の延長を一時は検討したドイツ政府や、2025年の原発廃止を10年間先延ばししたベルギー政府とは異なり、日本政府は、原発活用の具体的な動きを示していない。
2024年にかけて高効率石炭火力の建設ラッシュ
岸田文雄内閣の目玉政策の一つとして2022年5月に「中間整理」が発表された「クリーンエネルギー戦略」でも、結局、原発のリプレース・新増設は打ち出されることがなかった。わが国においては、エネルギー危機への対応策として、原発が速効性をもつことはないのである。
石炭火力をめぐる状況は、原発とは対照的である。2021年の電源構成に占める石炭火力の比率は、LNG火力の32%に続き、27%に達する。しかも、現在、日本では、熱効率が高く発生電力量当たりの二酸化炭素排出量が相対的に少ない超々臨界圧の石炭火力の建設ラッシュが進行中である(中国電力・三隅2号機、JERA・武豊火力5号機および横須賀火力1・2号機、神戸製鋼所・神戸4号機)。
これらの新設工事は、2024年には完了する。短・中期的には、新設された高効率石炭火力は、「天然ガス危機」に直面するわが国における電力の安定供給に貢献することだろう。