2023年箱根駅伝でどこまでシェアを上げられるか

次は両社のトップタイムを少し細かく比較してみよう。アシックスは女子ハーフマラソンでアディダスの記録を2秒上回ったが、それ以外はアディダスの完全勝利だった。

アディダスは特に男子の5kmと10kmが素晴らしかった。5kmの1位選手のタイムは今回、世界歴代3位に相当し、2位はケニア記録を樹立した。また10kmの1位選手は世界歴代4位のタイムで、以降も同5位、同6位タイの好タイムが続出した。

アシックスを凌駕したアディダス。この結果はシューズの差なのか。筆者はシューズの性能ではなく地力の差と見ている。

アディダスの5km、10kmで上位に入った選手はドーハ世界選手権(2019年)10000m銀メダリスト、東京五輪(2021年)5000m4位など実績がある。アディダスが世界トップクラスの選手を抱える一方、アシックスの契約ランナーはそこまでレベルが高くない。その差がタイムに表れているのだろう。

ただアディダスとしてはこのイベントは大成功だったとは考えていないだろう。同社は昨秋に第1回のイベントを開催しており、女子5kmでエチオピア人選手が世界記録を樹立。今回はそのタイムよりさらに速い記録を狙っていたはずだが、届かなかった(なお、アディダスのレースには大学生や社会人などの日本人3人が出場したが、いずれも下位に沈んだ)。

両ブランドが自前のイベントでPRしようとしていた新シューズは6月中旬発売予定の「METASPEED+」シリーズと、国内では7月発売予定の『ADIZERO ADIOS PRO 3』だ。ともに厚底モデルだ。

アシックスの「METASPEED+」は2タイプある。ストライド型ランナー向けの<SKY+>とピッチ型のランナー向けの<EDGE+>だ。ともにストライドを伸ばし、少ない歩数でゴールすることを追求したシューズ。軽量で反発性を持つ独自開発のフォームを増量して、カーボンプレートの位置も調整したことで従来モデルより推進力がアップしたという。

アシックス「METASPEED EDGE+」
写真提供=アシックス
アシックス「METASPEED EDGE+」

アディダスの『ADIZERO ADIOS PRO 3』は昨年7月に発売された5本指カーボンシューズの進化版になる。このモデルの初代版を履いたケニア人選手が以前、女子単独のハーフマラソンで世界記録を樹立しており、アディダスの厚底もナイキに迫ってきた印象だ。

アシックスもアディダスも前モデルを履いた日本人選手の評価が高く、2022年の箱根駅伝ではナイキ着用選手は21年大会201人→22年154人と減った一方、アディダスは4人→28人、アシックスは0人→24人と大きく巻き返した。両社とも今回の新モデルが選手にさらに評価されれば、23年の箱根を走る選手のブランド勢力図が再び大きく変わる可能性もある。

写真は、ADIZERO ADIOS PRO 2
写真は、現状のADIZERO ADIOS PRO 2 「アディダス公式通販」HPより

世界のトップ選手は各メーカーと契約しているため、レースで他メーカーのシューズを履くことはできない。しかし、一般のアスリートは性能だけでなく、デザイン、カラーも重視して、自分の好きなシューズを選ぶことになる。“ナイキ一強”から、再び、群雄割拠の時代に入っていくかもしれない。