なぜ「お肉券」や「お魚券」の発行が検討されたのか
本稿ではコロナ禍でインフレ以外にも様々な悲劇が日本を襲っているという話をしているが、ここで政府の「無策ぶり」についても触れたい。
感染拡大が始まった2020年、日本政府は様々なコロナ対策を講じた。しかし、普段から政治や経済に興味関心がない方からすれば、実感したコロナ対策はアベノマスクの配布と定額給付金の支給ぐらいだろう。
しかし、この定額給付金は非常に評判が悪い。そもそも、新型コロナウイルスの感染拡大で生産者が打撃を受けたことに対応するため、自民党が「お肉券」や「お魚券」を発行するという構想があり、これが散々批判を受けると、今度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で収入が減った世帯を対象にした30万円の現金給付案が示された。しかし、これも批判が集中したため、最終的に国民1人あたり10万円という定額給付金という案に着地した。
コロナ禍が3年目に突入したにもかかわらず、結局政府が国民に直接給付をしたのはこの1度だけだった。かたや米国では3回の現金給付を行い、更には職場に戻らない労働者が問題になるほどの手厚い失業補償まで与えたのだ。
日本政府が定額給付金に消極的なのは、お金を配ったところで貯蓄に回り消費されないので、税金の無駄遣いであり、財政健全化を遠ざける愚策だからという認識だからだろう。家計簿アプリの利用者23万人分のデータを事前の同意を得て調べた結果、7割が貯蓄に回ったという分析結果を嬉々として用いる辺りに、現金給付への嫌悪感が滲み出ている。
コロナ禍の給付金の目的は生活支援だったはず
たしかに、資金循環統計における家計の現預金残高の推移をみると、外出自粛や経済活動の抑制によって、本来は消費に回したかったお金が貯蓄に回ってしまう「強制貯蓄」が、20兆円から40兆円近くに積み上がっているのが確認できる。
ただ、この事実だけをもって定額給付金は無駄であると主張するのはおかしい。そもそも定額給付金の目的は何か。消費刺激策として配っているのであれば、たしかにそのうちの多くが貯蓄に回ってしまっては意味がないというのはわかる。しかし、当初は新型コロナウイルスの影響で所得が大きく減った低所得者層に限定して支給しようとしていたことを考えると、本来の目的は生活支援だったはずだ。
先程の家計簿アプリのデータを用いた分析では、低所得者層はそれ以外の層に比べて、消費に回す額が多かったことが同時に発表されている。それであれば本来の目的に照らし合わせて無駄であるとは言い切れないだろう。
また、低所得者層以外が仮に7割を貯蓄に回していたとしても、3割は消費に回したわけだ。誰かが消費すれば、回りまわって消費の一部が他の誰かの所得になるわけで、それもまた低所得者層を副次的に支援することにもなりうる。