盗めるものは盗み、そうでないものは壊す

大型で持ち去れないものは、壊すのが常套手段だ。キーウ近郊のノヴィ・ビキウ村の学校では、PCやプロジェクターなど小型機器がほぼすべて持ち出されているのが確認された。大型のプラズマTVは搬出できなかったとみえ、画面にはハサミが突き立てられている。

ウクライナ出身の政治学者であるウラジミール・パストゥホフ氏は英ガーディアン紙に対し、略奪行為は「隊員たちの補助的な動機付けとなっている」と指摘する。

ロシア人社会学者のアレクサンドラ・アルヒーポワ氏も同意見だ。「ロシア兵の多くが、この戦争は無駄で無意味なものだと感じています」と指摘する。「だから、『うちの子が家でパソコンが要るから、このパソコンを持って帰ろう』(と考えるのです)。こうすることで、無意味な状況はさして不合理なものではなくなり、より合理的となるのです。」

略奪は軍が組織的に実行か

ガーディアン紙は占領下にあった地域で数週間にわたる取材を行い、結果、異なる地域で同様の傾向を確認したという。このことから、「ロシア軍による略奪は単なる強欲な一部兵士によるものではなく、複数の町と村で展開したロシア軍の組織的な行動の一部であることを示す証拠を得た」と述べている。

これまでにも、奪った家電やPCなどを国際便で祖国に送ろうとしたなど、ロシアによる強奪の様子はたびたび報じられ、世界を驚かせてきた。キーウの人道派弁護士は、「略奪者たちの軍隊。おぞましい」とツイートした。

欧州報道機関のラジオ・フリー・ヨーロッパは、在ポーランドロシア大使館の前で4月13日に繰り広げられたデモを報じている。活動家らが掲げた風刺画には、兵士の安全よりも戦利品に目がくらむロシア市民が描かれている。風刺画の市民は、戦地に赴くロシア兵に対し、「きっと帰ってきて」ではなく「洗濯機をもって帰ってきて」と声を掛けている。

実際、ロシア兵のなかには、危険を冒して略奪に傾倒する者も目立つ。ウクライナ・インテルファクス通信によると、一部のロシア兵は防弾チョッキから防弾板を抜き取り、略奪したタブレットを空いたスペースに詰めている。

ゼレンスキー大統領は、「戦争で隣国の領土に入った数万のロシア兵たちは、ただただ(ウクライナの)生活の正常さにショックを受けたのだ」と語っている。そこには貧困がなく、十分な食糧と家財道具の整う町が広がっていた。「彼らの多くにとっては、従軍だけが社会的地位を高める装置であり、人生で少なくとも何かを得る機会なのだ。」

ウクライナの人々からすれば、たまったものではないだろう。1カ月以上を経て戻った自邸は好き放題に荒らされ、車のドアを開けるにも危険が伴う。ロシア軍は再びキーウに向かう動きをみせており、人々の心労は尽きることがない。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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