休日返上で会社の掃除をさせられても「残業代なし」

私が「この会社を辞めよう」と思ったのは入社式の日で、会長とわれわれ新入社員が初対面したとき、会長は「女子はどうせ結婚したら辞めることになるから、男性社員のみんなは末永くよろしく」と言い放った。

さらに、2年後にできる予定だった大阪支店の配属メンバーとして採用された私を含む4人の社員に向かって「誰が『大阪支店ができる』なんて言ったんだ? できねぇよ。今の社長が突然辞めるって言い出したから、退職金を優先して用意しなきゃいけなくなった。お前らが大阪に帰れるのはいつになるかわからない」と恥ずかしげもなく開き直って見せたのである。

東京本社での勤務は2年、それ以降は大阪支店に配属という約束が、入社式当日に破られてしまったことで私たちは激しく動揺し、新入社員の全員が「この会社に入ったのは失敗だった」と青ざめた表情をしていた。会社は典型的なワンマン経営の同族企業で、会長の暴走を止めることができる者は誰一人おらず、一族の人間が役員に就任しているため、一族の利益だけを考え、社員を捨て駒にする会社経営が堂々と行われていた。

残業代は出ない。当たり前のように休日出勤させられるのに休日手当や振替休日の制度はない。社員全員が休日を返上して一日中会社の掃除をさせられる。有給を取得するとなぜか給料から5000円が天引きされ、経理部に聞いても、この5000円が何の金額なのか明確な説明が受けられない。

オフィスに掃除機をかける人
写真=iStock.com/RicardoImagen
※写真はイメージです

既婚者の役員から「内緒の旅行」に誘われ…

毎朝行われる朝礼の際、全員が見ている前でいち社員に向けて怒声を浴びせる「しごき」が行われる。女性社員は「お嫁さん候補」として扱われ、飲み会では必ず管理職以上の男性社員の隣に座らされ、お酌を強要される。取引先への接待要員に若手の女性社員が駆り出され、ホステスがわりにされる。

また、女性には管理職の椅子が一切用意されておらず、昇進も昇給もない。女性社員は「結婚すれば退職」が前提のため、男女ともに産休や育休の取得実績はゼロだった。

入社から1カ月がたつまでには少なくともこれくらいのブラック企業体質が露呈し、毎年新入社員が15人ほど入っても、翌年には2~3人しか残っていない環境であることにも納得した。この時点で「いつごろ辞めるのが正解だろうか」と考えていたが、その直後に私の身にトラブルが降りかかった。

既婚者である役員の男性から「個人的な、みんなには内緒の旅行」に誘われ、丁重に断りを入れたところ相手の不興を買ってしまった。「吉川に徹底的に負荷をかけるように」と指示を受けた私の上司は、会長の息子である役員男性の命令に逆らえず、「ごめんね」と言いながら一人ではさばき切れないほどの膨大な仕事を毎日私に回すようになった。