子どものいない女性と子どものいる女性の賃金格差が持続的に縮小
この研究は韓国労働研究所のヤンヒェ・クワク研究員が「Review of Economics of the Household」という学術誌に2022年1月に発表したものです(*2)。
この研究では、アメリカの労働力調査に当たるCurrent Population Survey(CPS)を使用し、子どもを持つ女性と持たない女性の賃金を1990年から2019年まで比較しています。
分析結果を見ると、興味深い3つの結果が示されています。
1つ目は、「子どものいない女性と子どものいる女性の賃金格差の持続的な縮小」です。
1990年代前半では、子どもを持つ女性の方が6%ほど賃金が低くなっていましたが、その差は徐々に縮小していき、2005年以降では2%未満まで減少しました。
この結果が示すように、アメリカでは子どもの有無による賃金の差がかなり小さくなってきています。
(*2)Kwak, E. The emergence of the motherhood premium: recent trends in the motherhood wage gap across the wage distribution. Rev Econ Household (2022).
高所得層では、ワーキングマザーの方が賃金が高い
2つ目の興味深い結果は、「高所得層では子持ち女性の方が賃金が高い」というものです。
ヤンヒェ・クワク研究員は働く女性をその所得階層別に分類し、子持ち女性と子どものいない女性の賃金を比較しました(*3)。
この分類の中で特に興味深い結果を示したのは、高所得層の子持ち女性です。
自分で高い賃金を稼ぐことのできる女性について見ると、2005年以降、子どもを持つ女性と子どもを持たない女性の賃金格差が消失し、子持ち女性の賃金の方が約3~4%高くなっていました。
このように高所得層では、子どもを持つことによって賃金が低下する「賃金ペナルティ」が発生せず、むしろ、賃金が高い「賃金プレミアム」が発生しているのです。
「子持ち女性の方が賃金が高い」という傾向はこれまでほとんど観察されてこなかったため、この結果は非常に興味深いものです。
なお、所得階層が中位層や低位層の場合、依然として子持ち女性の賃金の方が低いという傾向が続いていました。
(*3)ここでの所得階層とは、女性の稼ぐ賃金水準を基に分類しています。高所得層の場合、上位10%の賃金を稼ぐグループが該当すると想定されます。また、中位層の場合、ちょうど全体の真ん中の50%を稼ぐグループが該当し、低位層の場合だと下位10%を稼ぐグループが該当すると想定されます。