相対リスク18%増と絶対リスク0.028%をどう考えるか

高齢の父親とてんかんの子どもについてのあの記事に戻りましょう。あなたは相対リスクが上昇(18パーセント)することは知っています。しかしここまで読んできた今では、それだけではよく分からないということも知っています。私たちが知る必要があるのはむしろ絶対リスクです。人生の後半で父親になった場合に子どもが実際にてんかんになる可能性は、より若くして父親になった場合の可能性と比べてどうなのか、という点です。

必要な数字は、0.024パーセントと0.028パーセントでした。25~34歳で父親になった場合に子どもがてんかんになるリスクは10万人当たり24人で、45~54歳で父親になった場合は10万人当たり28人です。その差は、平均して新生児10万人当たり4人です。

この差が重要でないと言っているのではありません。たとえ10万人に4人の確率でも、現実の確率です。しかしこれはさまざまなトレードオフと天秤にかける必要があります。人生の後半になってから子どもがほしいという人もいるでしょうし、そのような人は、たとえリスクがわずかに増えようとも、子どもを持つことには価値があると考えるでしょう。

メディアはリスクを相対値だけでなく絶対値で示すべき

とはいうものの、こうした問題をすべてメディアのせいにすることはできません。ほとんどの学術誌は執筆ガイドラインで絶対リスクを示さなければならないとしているにもかかわらず、多くの科学論文では絶対リスクが書かれていません。

トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)
トム&デイヴィッド・チヴァース『ニュースの数字をどう読むか 統計にだまされないための22章』(ちくま新書)

たとえば高齢の父親に関する「BMJ」の論文は、同誌の執筆ガイドラインに反して、すべての結果を相対リスクで報告していました。さらに、研究では絶対リスクが述べられているのに、プレスリリースでは述べられていないこともあります。

時間に追われ、あまり統計に強くないジャーナリストは、論文の中に絶対リスクの情報を見つけるのに苦労するのでしょうし(実際にある場合の話で、ない場合も多い)、そもそも論文にアクセスしたとしても、その情報が必要だということをおそらく認識していないでしょう。

しかしこれはコミュニケーションの重要な側面です。科学ジャーナリズムの役割は、少なくともライフスタイルのリスク(もし1晩につきワインをグラス1杯飲んだら、がんや心臓病になりますか?)に関しては、読者に有用な情報を提供することであるのは確かです。

そのような情報は絶対値で示す必要があり、そうでなければ意味がありません。学術誌、大学の広報部門、そしてメディアは皆、リスクは相対値だけでなく絶対値で示すべきだということを、動かせないルールとして確立する必要があります。

[脚注]
※1. Sarah Knapton, ‘Health risk to babies of men over 45, major study warns’,the Daily Telegraph, 2018
※2. Khandwala, Y. S., Baker, V. L., Shaw, G. M., Stevenson, D. K., Faber, H. K.,Lu, Y. and Eisenberg, M. L., ‘Association of paternal age with perinataloutcomes between 2007 and 2016 in the United States : Population based cohort study’, British Medical Journal, 363( 2018), k4372
※3. Sarah Boseley, ‘Even moderate intake of red meat raises cancer risk,study finds’, the Guardian, 2019
※4. Ben Spencer, ‘Teenage boys’ babies are “30% more likely to developautism, schizophrenia and spina bifida”’, the Daily Mail, 2015
※5. Bowel cancer risk, Cancer Research UK
※6. Klara, K., Kim, J. and Ross, J. S., ‘Direct-to-consumer broadcastadvertisements for pharmaceuticals : Off -label promotion and adherence toFDA guidelines’, Journal of General Internal Medicine, 33( 2018), pp. 651︲8. Table6.
※7. Kahwati, L., Carmody, D., Berkman, N., Sullivan, H. W., Aikin, K. J. and DeFrank, J., ‘Prescribers’ knowledge and skills for interpreting researchresults : A systematic review’, Journal of Continuing Education in the Health Professions, 3(7 2)( Spring 2017), pp. 129-36 doi : 10.1097/CEH.0000000000000150

【関連記事】
「野菜たっぷりなら良いわけではない」糖尿病患者にほぼ確実に不足している"ある食べ物"
40代で一気に「顔の老化」が進む人が毎朝食べているもの【2020年BEST5】
頭のいい人はそう答えない…「頭の悪い人」が会話の最初の5秒によく使う話し方【2021下半期BEST5】
「健康診断は不要である」そう断言する和田秀樹さんが、これだけは…と勧める"2つの検査"