中高年男性から若い女性へシフトした「ハイチオールC」

こうした手法は、子供向けや高齢者向けのビジネスだけでなく、他の業種でも応用が効きます。

わかりやすい例として、エスエス製薬の「ハイチオールC」があります。当初、同社は「肝機能を強化し、2日酔いの後にいい」といった効能を売りに、中高年男性を対象にして販売していました。しかし、競合も多かったため、商品の内容を変えず「しみ、そばかすを内からなおす」というキャッチフレーズのもと、若い女性にターゲットをシフトします。すると、20億円前後だった売り上げが、100億円に急成長したのです。

同社は「肝機能を強化する薬」市場に「しみ、そばかすをなおす薬」というサブカテゴリーをつくりました。これをきっかけに、他社も競合商品を発売し、新たな市場が誕生します。しかし、現在も、「ハイチオールC」のトップ・ブランドの座はゆらぎません。

日本ネスレの「キットカット」も、同じくサブカテゴリーの創造によって再生し、トップシェアを窺うほどになった商品です。

以前は袋詰めが主で、「最も安価なチョコレート菓子」といイメージの強い商品でした。Have a break, Have a kitkatというおなじみのフレーズを「ストレス・リリース」というコンセプトに定義し直した頃、一部の受験生が「キットカットで、きっと勝つ」という語呂合わせで、商品をお守りにしていたことを知り、受験生向けのキャンペーンを展開します。

味や成分は昔と同じ。「縁起物のチョコ」という新しい意味、新しい購入理由を消費者に訴求できたことで、受験生以外の層にも広く売れていくようになったのです。サブカテゴリーを創造し、商品と消費者の新しい関係をつくりだした結果、頭打ちの市場で売り上げを拡大させた例の一つでしょう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=大塚常好)