信頼性が高い自動運転が実現できる

GTソフィーの成長プロセスは、生身の人間に似ている。生まれた直後、人間は無力だ。成長とともにわたしたちはさまざまなことを学び、専門知識やスキルに習熟する。その中でルールなどを学び周囲(社会)と協調しつつ、強みを発揮して環境変化に対応し、より良い生き方を実現する。グランツーリスモという特定のビデオゲーム(デジタル)空間の中ではあるが、ソニーは高い利得を実現し、人を楽しませ、新しい価値観(付加価値)を提供するAIを生み出した。その技術が活用できる分野は多い。

その一つが、自動運転だ。誰しも自動車の運転には非常に気をつかう。GTソフィーの成果によって、ソニーがより信頼性が高い自動運転のソフトウェアを創出する可能性は高まった。熟練したエンジニアの“職人技”に頼ってきた半導体の回路設計にかかるコストの削減など、応用可能性は高い。GTソフィーの成果実現によってソニーはAIが経済と社会運営の効率性向上に貢献することをより明確に世界に示した。

自動運転のイメージ
写真=iStock.com/metamorworks
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AI×家電、自動車、音楽…新結合が生まれやすい

今後、ソニーはAIの成長を加速させ、さまざまなモノとの新しい結合を目指すだろう。具体的には、AIと家電、自動車、音楽などの結合があげられる。特に、ソニーのVISION-Sプロジェクトに最先端のAIがどう結合するかが興味深い。画像処理センサ技術、映画やゲーム、音楽などのコンテンツビジネス、さらにはGTソフィーなどのAI開発力が結合することによって、VISION-Sは新しいクルマの価値を世界に示すだろう。

そのためには、ソニーは既存事業で得られた経営資源を先端分野に再配分しなければならない。特に、ゲームのコンテンツ増加はAIの学習環境の拡充に欠かせない。ゲーム空間でのシミュレーションであれば、けが人が出ることはない。その上で、GTソフィーのようにAIが人間と対戦したり協調したりすることによって、わたしたちはAIの実力をよりよく理解できる。

学習の強化は、リーマンショックのような構造変化への対応などAIの課題解決にも影響する。世界のゲーム業界で大型の買収が増えているのは、メタバースへの対応に加えてAIの学習環境強化のためでもある。