外務省も悪用の可能性を指摘

そもそも、婚姻も離婚も紙一枚でできてしまう日本の制度では、結婚による改姓が悪用されることはこれまでにもありました。少し古いケースでは、国際テロなどを起こした「日本赤軍」の重信房子受刑者(殺人未遂罪などで服役中)が1971年に、結婚し改姓して新たにパスポートを取得し、海外に逃げ延びたことがあります。また、日経新聞などの報道によると、2011年にも偽装結婚による改姓を悪用した保険金殺人事件がありました。2022年1月には、同一人物が旧姓・現姓で2種類の運転免許証を取得して道路交通法違反で逮捕された事件を、千葉日報が報じています。千葉県警千葉西署によると、この容疑者は結婚や養子縁組で複数回改姓を繰り返しており、異なる名義を不正な目的で利用しようとしていたとみられています。

外務省は2019年、内閣府による「女性活躍加速のための重点方針」に盛り込むべき事項に関係する各省ヒアリングに対し、「複数の姓を公証しているように見えるため、旅券の旧姓を国内外で悪用(詐欺行為等の犯罪に利用)する者が現れる可能性」があると述べ、パスポートへの旧姓併記が悪用される可能性を指摘しています。

異なる名義の銀行口座、複数持てる

私は過去の議員勉強会で、親の離婚や再婚、自分の離婚や再婚により「現在7つ目の姓」という方からお話を伺ったことがあります。

結婚や離婚などによる改姓を経験された方はわかると思いますが、銀行口座は、住所変更やキャッシュカードの紛失届けなどをしない限りは、名義変更を行わなくても、旧姓のままで問題なく使えてしまいます。もしも「現在7つ目の姓」という方が、改姓するたびに銀行口座を作り、名義変更せずにそのまま持っていたとしたら……。同一人物が、異なる名義の銀行口座を複数持ち続けることが可能です。

現状に輪をかけて悪用を容易にするのが、旧姓の通称使用です。2017年、金融庁から銀行協会や証券業協会に対し、「実情に応じて可能な限り円滑に旧姓による口座開設等が行えるようにお願いしたい」という要請が出されました。対応は金融機関により異なり、今も戸籍名でないと口座が開設できないところは多いですが、銀行によっては、旧姓の実績証明さえできればマイナンバー提示なしで旧姓名義の口座を取得することもできます。

実際私は、2種類の旧姓名義の口座2つと、戸籍姓名義の口座の計3種類の銀行口座を持っています。旧姓併記のマイナンバーを提出して開設した生来の姓名義の口座、長く仕事などで使用した旧姓である初婚時の姓名義の口座、戸籍姓である再婚後の姓名義の口座の3つです。

イミテーションの通帳
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