日本にはない「ミドルネーム」

また、イギリス人の下の名は一つではない。最初の名(洗礼名、ファーストネームまたはフォアネーム等と呼ばれる)の他にたいがい「ミドルネーム」を持っている。姓と名が一つずつである以外にバリエーションのない日本からすると、これも不思議で興味深い。ミドルネームはファーストネームとともに出生時につけられ、ファースト、ミドル、サーネームの順で並ぶのが一番多いスタイルだが、中には複数の名を持つ人もいる。

例えばウィリアム王子のミドルネームは、「アーサー・フィリップ・ルイス」とファーストネームの他に三つある。父君のチャールズ皇太子のほうは「フィリップ・アーサー・ジョージ」だ。

このように王族、貴族などの間で、父系母系にかかわらず先祖につながる血筋を誇るために名前を並べる、という中世イタリアでの慣習が英国にも広まったのがミドルネームだ。どちらを向いてもジョンやポールやジョージなど同じような名前なので、それでよく誰のことかわかるものだと感心してしまう。これはローマ時代以降のキリスト教国において「洗礼名は聖書に載っている名からのみ」という慣習から来ている。

しかし今では階級に関係なく、祖父母など血縁者の名、母親の旧姓、親が尊敬する聖人や有名人から映画の登場人物の名前までがファーストネームの後に続けられている。最近はユニコーン、アップル、ミントなど、およそ名前らしからぬミドルネームも珍しくなくなった。

学校の試験で初めてわかる自分の名前

イケメンシェフとして知られるジェイミー・オリバーの五人の子どもたちの名前を並べると、「ポピー・ハニー・ロージー、デイジー・ブー・パメラ、ペタル・ブロッサム・レインボー、バディー・ベア・モーリス、リバー・ロケット」と、まるで子ども番組のキャラクター名を見ているような気分になってくる。

親が想い入れたっぷりに並べた名のうち「どの名で呼ばれたいか」は、ここでも本人の意思が優先だ。しかし中には、親自身が初めから子どもをファーストネームで呼ばない例もある。

英国TVドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のジョン・スノウ役で知られるキット・ハリントンのフルネームはクリストファー・ケイツビー・ハリントン。自分の正式なファーストネームが「キット」ではない、とわかったのはなんと小学6年生の時だったという。親ですらキットを「クリストファー」と呼んだことはなかった。小学校で「正式な」ファーストネームとラストネームを書かされるのは、卒業前に行われる全国共通学力試験の時が初めてであることが多い。