雅子さまへの愛情がにじむ一言

「雅子に希望を聞いてから決めようと思います」

陛下はお優しくていらっしゃる――。雅子さまへの愛情がにじむ言葉に、篠さんはこう思った。

歌会始のお題を決めるのは、天皇陛下だ。

まずは、歌会始の5人の選者が過去のお題を参考に、二つにしぼる。

一般の人びとが歌にしやすいか、理解しやすいかといった視点が大切だ。

最終的に決定するのは、天皇の役目だ。

今回、「窓」という題に対して、天皇陛下は次のように歌を詠んだ。天皇陛下が公表した和歌は、御製と呼ばれる。

世界との往き来がたかる世はつづき窓開く日をひとへに願ふ

コロナ禍が収束したその先に、いま大きく落ち込んでいる世界との人々の往来が再び盛んになる日の訪れを願って詠まれた和歌だ。

「結句の第5句目が説明的でなく、真実味が深い」

篠さんは今年の陛下の和歌をそう説明する。

「皇太子でいらしたころは、山の情景をお詠みになることも多くありました。天皇に即位してからは、歌を締めくくる用語として『望む』『祈る』『願う』など、人びとと共にある言葉をお選びになっています」

ことし陛下が詠んだのは1首。ご自身で痛感なさったことが主題であり、お人柄がにじむと感じたという。

「陛下が本格的な作歌活動に入るのはこれからでしょう。令和という時代をどう表現なさるのか、楽しみです」

続いて、皇后雅子さまの御歌。

新しき住まひとなれる吹上の窓から望む大樹のみどり

昨年9月に天皇ご一家は、改装された吹上御所に移った。上皇ご夫妻への感謝とともに、御所から皇居の木々の緑深さを詠まれた。宮内庁のホームページには、そう解説がなされている。

和歌をご指導した篠さんは、「もう少し内なる気持ちが込められた御歌である」と話す。篠さんが、「吹上御所の窓から、けやきの巨樹が見えます」と話したところ、皇后さまは、その光景をお気に召したのだという。しかし、ただ皇居の緑の情景を詠んだ和歌ではないと篠さんは解説する。