政府が気候変動対策としてガソリンやディーゼルに対して高い税金を課しているのが、他のヨーロッパ諸国に比べてもノルウェーで化石燃料の価格が高い根本的な理由だ。
燃料代が安ければユーザーは従来型のガソリン車やディーゼル車の購入も検討できるが、そうした選択ができないような構造が政府によって作られているといった方がいいだろう。
世界有数の産油国として各国に化石燃料を輸出して経済成長を図りながらも、国内では気候変動対策のために化石燃料の使用に厳格であるノルウェーの様に対し、一種の矛盾があるのではないかという批判的な声も少なからずあるようだ。
とはいえ、ノルウェー政府はそうした声に耳を傾けることなく、自らが描くEV化戦略を粛々と推し進めている。
点と線という国土発展史もEV普及に合致
EVが普及するためには、充電ポイントの増設が欠かせない。バッテリーの技術も日々刻々と向上しているが、EVはガソリン車やディーゼル車のようなロングドライブにはまだ適さないという評価が一般的だ。
こうした点につき、まさに「点と線」の形で発展してきたノルウェーの国土が、結果的にEVを普及しやすくさせる方向に働いた。
ノルウェーの国土面積は38万5200km2と日本(37万8000km2)とほぼ同様だが、人口は540万にも満たず、首都オスロでも人口は都市圏で80万人を超える程度だ。ノルウェーの都市は南部に集中しているが、それでもオスロと第二の都市ベルゲンとの間は500キロ近くも離れている。オスロから北部の最大都市トロムソまでは1500キロ以上もある。
また地形が複雑であるため、都市圏間の移動は主に飛行機で行うことが多い。つまり、自家用車はあくまで都市圏の中の移動手段にすぎない。
当然だが、都市圏内であれば充電ポイントの施設は比較的容易だし、スケールメリットが働きやすいと言えよう。電力の配送コストの観点からも、充電ポイントが都市部に集まっていた方が合理的だ。
ノルウェーの国土の特徴と都市、交通の発展の在り方が、期せずしてEVの普及に高い親和性を持っていたということになる。隣国のスウェーデンのキャッシュレス事情を考える場合もそうだが、こうした構造変化は国土の発展史と密接にかかわっている。
ノルウェーの経験はどの国でもできるものではなく、過剰に美化するべきではないと言えよう。