ランナーのタイプに合わせてモデルを開発

では、社長直轄のC-Projectで開発されたMETASPEEDはどのように誕生したのか。

日本人ランナーだけでなく、東アフリカの有力ランナー30人のデータなども解析。ランナーがシューズに合わせるのではなく、ランナーの走り方にシューズを合わせるという新たなコンセプトでシューズ作りが始まった。

「ランナーのなかで『厚底=高速化』というイメージが高まりつつあると感じています。一方で、ランナーの走力、目的によって靴を選んでもらうことが大切です。アシックススポーツ工学研究所で、キロ3分ペースの走りを何度も計測した結果、歩幅がランナーによって異なることがわかったんです。1つの靴でランナーの走りを合わせるのではなく、ランナーの走りに靴を選んでもらうために2つのタイプのシューズを開発しました。『一番早く走れる靴を作る=史上最速のシューズ』という想いで挑みました」(前同)

2つのタイプというのが「ストライド型」と「ピッチ型」だ。ランニングフォームは歩幅を広げることでスピードを上げるストライド型と、脚の回転数によってスピードを上げるピッチ型に分けられる。

ストライド型に対応した『METASPEED Sky』はストライドがより伸びるように、ピッチ型に対応した『METASPEED Edge』ではストライドを伸ばしながらもピッチを上げやすい仕様になっているのだ。

右がストライド型のランナーに対応したMETASPEED Sky、左がピッチ型のランナーに対応したMETASPEED Edge。
写真提供=アシックス
右がMETASPEEDでストライド型、ピッチ型とも同じ。左が長距離用ピンレススパイクのMETASPEED LD0。

ともに優れた反発性を発揮する特殊素材をミッドソール全面に採用し、着地と同時に素早く元の形状に戻ることで、跳ね返るような感覚がある。さらに軽量のカーボンプレートをミッドソール内部に搭載し、その反発力で効果的に身体を前方向へ推進させる。またランナーの走りにマッチしたシューズを選択できるため、脚への負担が小さくなり、ケガの予防にもつながるという。

アシックスのスポーツ工学研究所が実施した実験では従来品と比較してフルマラソンでMETASPEED Skyが約350歩、METASPEED Edgeは約750歩少ない歩数でゴールできるという。それだけストライド(歩幅)が伸びれば、当然タイムも変わってくる。シューズの進化が川内に8年ぶりの自己ベストをもたらしたといってもいいだろう。

METASPEEDはアシックス従来のレースシューズと比べるとかなり厚底だ。しかし、社内では「厚底」とは表現していないという。そこには、他社の厚底シューズとは違うんだというプライドがひしひしと感じられる。