中国の防衛費は日本の4倍以上

台湾に全力を集中せねばならないときに、日米同盟を正面から敵に回し、東京や大阪を爆撃して日本を全面的に台湾紛争に巻き込むことは外交的にも戦略的にも決して上策ではない。米国も日米同盟に従ってフルに参戦する。米国議会も国民も黙っていないであろう。

しかし、中国軍が、沖縄、九州、さらには本土の米軍基地、自衛隊基地を一気に叩いてこないという保証はない。山本五十六連合艦隊司令長官のように、どうせやるなら持久戦、消耗戦でなく、最初の一撃で思い切り敵の頭や鳩尾を叩きたいと考える中国軍人が出てこない保証はないのである。

軍司令官のイメージ
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習近平が台湾を侵攻するかどうかという意図の問題から議論するのは誤りである。まずは人民解放軍の能力を見なくてはならない。安全保障の分析は、相手の能力評価から始まる。中国自身の国力の急増を反映して、人民解放軍の予算も能力も急激に上昇している。もはや米軍以外にサシで中国軍に対応できる軍隊は存在しない。我が自衛隊もサシの戦いなら負ける。

自衛隊の能力構築には巨額の予算と時間がかかる。第二次安倍政権登場まで、中国の大軍拡を横目に見ながら、日本政府は無責任にも防衛費を削減し続けていた。第二次安倍政権が立ち上がったとき、防衛費はわずか4兆7000億円だった。安倍政権が終わった後、防衛費は5兆3500億円のレベルにまで戻した。しかし、その時すでに中国の軍事費は25兆円弱で、さらに2桁で伸びようとしている。地域の軍事バランスは、急激に中国に有利に傾きつつある。

経済規模が3分の1の韓国にも防衛費で抜かれそう

習近平は政権のリスクを冒してまで戦争しないとか、日本の防衛装備充実が中国を刺激するという議論があるが、中国の大軍拡を前にして、浮世離れした話である。習近平のような独裁者の判断を予め知ることは不可能である。ある日突然戦争が始まることはよくある。

そもそも普通は開戦の直前まで開戦の意図は明らかにしない。奇襲は戦争の常道である。プーチン露大統領のクリミア併合の日を誰が予測しただろうか。ヒトラーの独ソ戦開戦の日を誰が予測しただろうか。

習近平は台湾併合が歴史的任務であると公言している。習近平のような独裁者の心が読める人などいない。中国に圧倒的に有利な軍事的状況で、いくら習近平が開戦しないなどと議論しても、危険を招くだけである。弱いほうから挑発するのは愚の骨頂であるが、相手が「やれる」と思いそうなときに、「やっぱりやれない」という客観的軍事状況にしておくことが大切なのである。それが抑止である。

抑止のためには能力構築が必要である。太平の世に慣れすぎた日本の努力はまだまだ足りない。恥ずかしいことに日本の3割程度の経済規模の韓国にもうすぐ防衛費で抜かれそうな勢いである。もちろん、老いた日本だけでは中国に軍事的に対峙たいじできない。日米同盟の強化が要る。習近平は、自由とか愛とか言っても理解しないが、権力闘争の猛者として力の論理は理解できる。だからきちんとした準備が要るのである。