意図せぬ方向に議論が向かったときの対処法

その場にいる参加者たちが活発に意見を出し合う熱量の高い場では、議論の内容がファシリテーターのコントロールを離れ、意図せぬ方向に進んでしまうことがあります。

平石直之アナウンサー
写真=筆者提供
平石直之アナウンサー

余談から生まれるアイデアもありますから、脱線は必ずしも悪いことではありません。しかし、残り時間が迫っていたり、明らかに本題とはかけ離れた方向に話が進んでしまった場合には、やはり、軌道修正をするのもファシリテーターの大切な役割です。

そんなときは、別の機会を設けることを提案するのが、議論をスムーズに前へ進めるコツです。

たとえば以前、番組内で国のデジタル化をどう進めるかについて議論しているときに、ある出演者の「そもそもスマホを持っていない高齢者やWi-Fi環境のない家庭はどうすればいいのか」という発言をきっかけに議論が始まってしまったことがありました。

それはそれで有意義なテーマであることは間違いありませんから、むやみに話を止めるのも憚られます。きっと視聴者にとっては、そちらもまた関心の高い話題でしょう。

しかし、番組の残り時間を踏まえれば、そろそろ本題に戻さなければならない。

こういったときに私は、次のようなフレーズを用いて議論をコントロールしています。

「これはぜひ、あらためて時間を設けて話し合いたいテーマですね」
「たしかにこれもきちんと議論の機会を用意すべきテーマかもしれませんね」
「それについてはぜひ次回以降にメインテーマとして取り上げましょう」

単なる余談として片づけるのではなく、“余談で済ませるには惜しい”議論であることを強調するのがポイントです。

こうした言葉のあとに、「ひとまずここでは本題の◯◯について、そろそろまとめていきたいと思いますが……」とつなげれば、当事者もそれほど気分を害することはないでしょう。

平石直之アナウンサー
写真=筆者提供
平石直之アナウンサー

いささか無責任に聞こえるかもしれませんが、実際に次の機会が設けられるかどうかは、ここでは重要ではありません。

ファシリテーターがその論点の重要性に気づいている姿勢を見せることで、論客は安心していったん矛をおさめることができるもの。案外、それで気が済んでしまう人も少なくはないでしょう。

結果的に必要な議論に時間を割くことができ、設定されていたアジェンダを消化することができるなら、その会議は成功と言えるはずです。