四番打者が背負うべき本当の役割

同日、大山が途中出場でヒットを打ったとき、大山はダグアウトを一瞥いちべつもしなかった。「なぜスタメンで出られなかったんだ」――自分の野球に対する怒り、悔しさを初めて感じたのではないか。

もちろん責任は不甲斐ない自分にある。自分の出した結果に対するチームへの影響を、大山はもっと感じていい。もっともっと、そういう表情を出したほうがいいと思う。大山のそんな表情を初めて垣間見られた気がして、僕は少しうれしかった。

すなわち、チームの勝ち負けの責任を背負うのが「四番打者の条件」なのだ。阪神タイガースというチームは、とくにその色が濃いと僕は思う。

極端なことを言えば、四番が打てなくてもチームは勝てる。別に僕が打たなくても、真弓さんなり、バースなり、岡田が打てばチームは勝った。しかし、四番の僕が打てば、勝つ確率が当然もっと高くなった。

それよりも、敗戦のチームの「負の部分」を背負うことが、本当に大切だったのだ。

仮に、僕が4打数3安打しても、チャンスで打てなくて負ければ、その打てなかった1打席をマスコミに痛烈に批判される。「掛布、チャンスで凡退」。

いや、それでいい。四番が責任を背負うことによって、ほかの選手たちが非常に楽にプレーできるからだ。

「四番」は正直難しい。だからこそ「四番」なのだ。

巨人・岡本、ヤクルト・村上にあって大山にないモノ

思えば、1986年からの9年間で実に8度のリーグ優勝を果たした森・西武。四番・清原和博を援護した五番・デストラーデが1992年、三番・秋山幸二が93年を最後に西武のユニフォームを脱いだ。清原はどうしたか。1994年、苦しみながらもリーグ最多の100四球を選んで、リーグ優勝に貢献したのだ。

巨人は高橋由伸監督時代、岡本を使い続けた。優勝を逃したが、由伸監督は生みの苦しみに耐え、「四番・岡本和真」を誕生させた。全143試合出場、打率3割30本100打点は、まさに待望久しい大砲だった。

原監督になり、四番・岡本で2連覇を遂げる。2020年は本塁打・打点の二冠王だ。その2年間は坂本と丸が岡本を援護した。2021年は坂本と丸の調子が芳しくなく、岡本ひとりのバットでは勝てなかった。

これまで坂本が背負っていた「負の部分」を岡本が背負ったことにより、「巨人の四番・岡本」をさらに成長させる1年になったのではないか。

「2020年は最下位チームの四番だった。2021年は優勝チームの四番になりたい」

その言葉どおり、勝負強い村上が軸になって、12球団で唯一、チーム総得点が600点を突破したヤクルト。阪神とのマッチレースを制し、優勝の果実をもぎ取ったことにより、村上が四番打者としてひと皮むけるのは間違いない。

岡本も村上も、負けても勝ってもチームの責任を背負ったのだ。

巨人の松井秀喜、坂本、岡本にしても、そして僕にしても、奇しくも高卒プロ入り6年目で打撃タイトルを獲得している。筋力、木製バットへの対応からしても、それぐらいの時間を要する。

その点で言えば、2年目の阪神・井上広大は少し長い目で見てあげなくてはならない。