あたかも相手が望んで来たかのように振る舞う

価格以外でも、自分から提案するよりも、相手から提案してもらった方が有利になります。巧妙な交渉者の中には、あたかも相手が自分に近づいてきたかのように見せかける人もいます。

映画プロデューサーのサム・ゴールドウィンは、ダリル・ザナックから契約俳優を借りようとしましたが、ザナックが会議中で連絡が取れなかったことがありました。何度も連絡をしているうちに、苛立ったゴールドウィンはとうとう、会議中のザナックを呼び出しました。ダリル・ザナックがようやく電話口に出たとき、電話をかけたサム・ゴールドウィンは、「ダリル、今日は何の用かな」とあっけらかんと言ったのです。

給与交渉では先に希望額を言ってはいけない

アトランタに住むエグゼクティブ・コーチで、再就職支援のカウンセラーでもあったルイス・クラヴィッツは、忍耐力と話すべきでないタイミングを見極めることをアドバイスしています。彼がコーチをしたある若者は、クビになったばかりで、次の仕事では2000ドル減の2万8000ドルでもいいと言っていました。しかし、クラヴィッツは彼に「先手を打たせなさい」と指導しました。

この事例では、面接官が3万2000ドルを提示したところ、大喜びした求職者は、一瞬沈黙してしまいました。面接官はそれを不満だと解釈しました。結果、提示額は3万4000ドルになりました。

「交渉事では、先にしゃべった方が損をすることが多い」と、彼は言っています。

《覚えておくべきキーポイント》
①最初に価格を提示しなければならない方は、不利になる。
②相手のオープニングポジションを修正することを躊躇してはいけない。例えば、「捨て値であれば、興味を持てるかもしれない」や、「1万ドルのオファーはすでに断っている」などだ。

交渉上手な人があえて「バカ」を装う理由

パワーネゴシエーターにとって、賢いことは愚かであり、愚かなことは賢いことです。交渉の場では、他の人よりも知識が少ないように振る舞ったほうがいいでしょう。愚かに振る舞えば振る舞うほど、あなたは有利になります。ただし、あなたのIQが信頼性に欠けるところまで落ちない程度の話ですが。

これには理由があります。ごく稀な例外を除いて、人間は知能や情報量が少ないと思われる人を利用するのではなく、助ける傾向があります。もちろん、世の中には弱い人を利用しようとする冷酷な人もいますが、ほとんどの人は自分が賢いと思う人と競争し、自分より賢くないと思う人を助けたいと思いがちです。