交渉上手な人は、どうやって自分の要求を通しているのだろうか。交渉術アドバイザーのロジャー・ドーソンさんは「例えば、給与交渉では先に希望額を言ってはいけない。この原則を知らないと大損する場合がある」という――。

※本稿は、ロジャー・ドーソン、島藤真澄訳『本物の交渉術 あなたのビジネスを動かす「パワー・ネゴシエーション」』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

面接を受ける女性
写真=iStock.com/kazuma seki
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金額は「相手から先に提示してもらう」

交渉上手なパワーネゴシエーターは、相手に先に提示してもらうほうが、通常は有利になることを知っています。その理由は明白です。

●相手の最初の提案が、あなたの予想をはるかに上回るものである可能性がある。
●相手に何かを伝える前に、相手の情報を得ることができる。
●相手の提案をブラケティング(いったん相手の提案を脇に置いて、より自分にとって有利な最初の提案を申し出る)することができる。最終的に差額を折半することになっても、自分の欲しい額で手に入れることができる。

もし、ビートルズのマネージャーだった、ブライアン・エプスタインがこの原則を理解していたら、ビートルズの4人は最初の映画で何百万ドルも稼ぐことができただろう。ユナイテッド・アーティスツは、ビートルズの人気にあやかりたいと考えていたが、人気がいつまで続くかわからないため、思い切ったことができなかった。映画が公開される前に、一時的な成功に終わってしまう可能性もあった。彼らは、この映画を安価なモノクロ映画として企画し、わずか30万ドルの予算で製作したのである。

相手の出方を待てずに何百万ドルもの利益を失った

これでは、ビートルズに高額のフィーを払うことはできない。そこで、ユナイテッド・アーティスツは、利益の25%をビートルズに提供することを計画していた。1963年当時、ビートルズは世界的なセンセーションを巻き起こしていたので、プロデューサーは彼らに先に値段を挙げてもらうことに非常に抵抗があったものの、勇気を持ってルールを守り通した。彼はエプスタインに2万5000ドルの前金を提示し、利益の何%が妥当だと思うかを尋ねた。

ブライアン・エプスタインは映画ビジネスを知らなかったので、「彼らが映画を作るために時間を割くとは思えないが、もし君が最高のオファーをしてくれるなら、それを持ち帰って、彼らと一緒に君のために何ができるかを考えよう」と言うべきだった。しかし、彼の承認欲求がそれを許さなかった。そのため、彼は「利益の7.5%をもらわないと、やらない」と答えた。

このわずかな戦術ミスで、ビートルズは何百万ドルもの利益を失った。リチャード・レスター監督は、誰もが驚いたように、グループの1日を見事にユーモラスに描いた『ハード・デイズ・ナイト ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!』を製作し、世界中で記録的な大ヒットを収めた。

双方が「先に提示してはいけない」と学習していた場合、双方が数字を出すことを拒否していつまでも黙って座っているわけにはいきませんが、原則として、相手が何をしたいのかを先に確認することが必要です。