選択肢が多すぎて自分の選択に自信を持てない

今や20億ドルもの規模になった広告産業はただ1つの目的のために動いている。それは、人々に「今の生活は間違っている」と感じさせることだ。今のままでは十分に幸せではないと感じさせるのだ。

大量消費主義は、人々が今の自分の生活に満足し、「もうなにもいらない。もう欲しいものは全部持っているから」と言い始めたときに終わってしまう。それは、キリスト教から仏教まで多くの宗教が理想としている状態である。どの宗教も人々をその状態へと導こうとしている。しかし、宗教が以前のような力を失った現代では、人々がその状態に達するのを阻止するためのメッセージを発するのに何十億ドルものお金が使われている。

現代はかつてないほど選択の幅の広い時代である。なにを買うにしても、競合する似たような商品が数多く売られている。そのせいで私たちは容易に罠にかかって抜け出せなくなってしまう。選択の自由があるのは良いこととされるが、あまりにも選択の幅が広いとかえって害になることもある。そのせいで一種の中毒状態になってしまうのだ。

皮肉なことに現代では、選択肢が多すぎるために、誰も自分の選択に絶対の自信を持つことができない。選択をしなくて済むのならそうしたいと思う人も実は多いはずだ。

心理学者のバリー・シュワルツはこの現象を「選択のパラドックス」と呼んでいる。私たちは選択の幅が広いことを良しとし、選択の幅が広がることを望む。しかし、あまりに選択肢が増えると結局、幸福感は減ることになる。昔の人は今の私たちほど、こうしたジレンマに悩まされることはなかった。飢えることはあっても、美味しそうな食べ物が多すぎてどれを食べていいか悩むということはまずなかった。

ある程度良いもので“満足”する

日々、選択肢があまりに多すぎるという問題に対処するには、“満足化”という方法を採るといいだろう。これは、ノーベル賞を受賞した経済学者、ハーバート・サイモンが最初に唱えた方法で、シュワルツもこれに賛同している。満足化とは、ある程度以上、良いと思えるものが1つ見つかったら即、それを選ぶ、という方法である。それ以降はもう検討をせずに先へ進む。

フランク・マルテラ『世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めない』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
フランク・マルテラ『世界一しあわせなフィンランド人は、幸福を追い求めない』(ハーパーコリンズ・ジャパン)

なにかを買うとき、決断を下すときに、細かいところまですべてを検討するわけではない。なにもかもが最良と思えるものが見つかるまで待つということはしないのだ。あまりに細かく検討をしてしまうとストレスもたまるし、かえって不満や後悔が大きくなる。それでは時間やエネルギーなどの資源を無駄遣いすることになるだろう。

だが、広告の影響力は大きい。絶えず、これを買えば生活はもっと良くなると訴えてくる。それに対抗するためには、自分の心の中に確固たる指針を持っていなくてはならない。自分なりの価値観、人生の目標をしっかり持っていないと、この広告だらけの社会に振り回されずに生きることは難しいだろう。

どうすれば自分の人生が意味のあるものになるのか、それを知っていれば大いに助けになる。そうすれば、派手に宣伝される高価な新商品を手に入れなくても、十分に満足のできる人生を歩めるはずだ。

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