火力発電に変わる主力電源として、洋上風力への関心が高まっている。「EnergyShift」発行人の前田雄大さんは「政府は洋上風力を『切り札』と位置付け、巨額投資を計画している。しかし、海外企業の絶好の狩り場になる恐れがある」という——。
風力タービン
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「主力電源の切り札」日本の洋上風力に迫る危機

昨年10月、菅義偉首相(当時)が「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」という政府目標を掲げた。だが日本の電源構成は火力発電が全体の7割超を占める。カーボンニュートラルの実現には、火力への依存度を下げ、再生可能エネルギーの普及が不可欠だ。

ただし太陽光でその電力全てを賄うには日本の国土は狭く、山林だらけであるため限界がある。また、サプライチェーンも中国に支配され、日本勢が割って入れないという致命的な弱点がある。そこで政府が注目したのが「洋上風力」というわけだ。

洋上風力発電の規模を2030年までに1000万、2040年までに3000万~4500万キロワットまで引き上げるという目標を政府と民間企業でつくる協議会で決めた。原発1基を100万キロワットと換算すると最大で45基分になる、実に野心的な目標だ。

政府は「エネルギー基本計画」で、洋上風力を「再生可能エネルギー主力電源化の切り札」と持ち上げている。実質、これから火力から洋上風力への大転換が行われる。つまり、大規模な投資が行われることを意味する。

無論、世界の潮流も考えれば日本の経済のためにも脱炭素転換は重要だ。脱炭素の観点から日本でも洋上風力が拡大することは歓迎すべきことだが、懸念すべき点がある。それは、この新しい市場が海外勢の狩り場になる恐れがあるという点だ。

特に洋上風力が産業として盛んな欧州、中でも自国の経済復興の鍵と位置付けるイギリスにはヨダレを抑えられない展開だろう。

本稿では、日本の洋上風力発電が早々に直面する危機を三つの点から警鐘を鳴らしたい。脱炭素をめぐる主導権争いの結果、日本は欧州の経済的侵略の対象に成り得る——洋上風力は脱炭素をめぐる残酷な現実を示す「好例」となりかねないのだ。