他にも「求職貸」「培訓貸」も問題となった。研修企業は「無料で就職のためのスキルが身につく」という触れ込みで学生を集めるが、実際には研修費は借金で支払わせる。研修企業が斡旋した職場で働けば月賦で返済することになるが、その就職先を断るとただちに一括返済しなければならない。

もちろん、すべての大学生がこうした手口にひっかかるわけではないが、人口が日本の10倍という中国では金融リテラシーが低い学生の数も10倍いるわけで、こうしたビジネスが蔓延する余地が広いわけだ。

学生や新卒の身では多額の借金を返すことは難しい。結局は親に頼るしかなく、持ち家を売り払う羽目になったという話もしばしばだ。そして、前述のとおり、親に頼れず自殺するという悲惨な話もある。

デート資金がきっかけで900万円の借金を背負った女子大生

こうした、いかにも“怪しげ”な校園貸と違い、完全に合法でしかも大学生でも簡単につかえる便利なツールとして普及しているのが、アリババグループのアリペイやテンセントのウィーチャットペイだ。

モバイル決済アプリはもともと口座にある現金を使って、商品やサービスを購入するという使い方が一般的だった。その後、機能が発展するにつれ、月賦払い機能や消費者金融機能が追加されている。デビットカード(銀行口座から都度引き落とされる形式)からクレジットカードへと進化したと考えるとわかりやすい。

しかも、アプリを提供するIT企業は消費者に関する豊富な情報を保有している。朝は何時に起きるのか、昼間はどこにいるのか、どのような買い物をどれぐらいの頻度でしているのか、ネットで何を調べているのか、どのような交友関係を持つのか……こうしたビッグデータから収入がない大学生であっても、いくらまで融資できるのかという与信を正確に行うことができる。

データに基づく与信は決して悪いことではない。中国ではもともと金融サービスを使える人が少ないことが課題であった。毎月一定の収入がある正規職か、不動産などの資産を持っている人以外は融資を受けることが難しい。データを用いてこの課題をクリアしたことは金融包摂(ファイナンス・インクルージョン)の成功例として世界的な評価を受けている。

しかし、その一方で金融リテラシーが低い人々でも簡単にお金を借りられることから、債務地獄に陥ってしまうというケースがあることは否定できない。

家で泣いている悲しいうつ病の女性
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「19歳の女子大生、デート資金を借りたのが運の尽き。ついつい借金を重ね、違法な高金利によって債務は約900万円に」(中関村オンライン、2016年11月11日)「アリペイの月賦払い機能で高級スマホを購入。返済できずに生活費にも事欠く武漢市の大学1年生」(半月談、2020年9月3日)といったニュースはたびたび流れているが、それは「政府は何をやっているのか」という不満につながる。中国共産党としても放置できない課題だ。