ところが、国民と国体をここまで危機に至らしめた原発事故の収束も覚束ない中で、政府はなおその再開に拘泥し続け、電力会社は国民の注視をものともせず平然と「黒塗り報告書」を提出する。
スリーマイル島事故が起きる前から原発事故の危険性に警鐘を鳴らし続けた物理学者の故・武谷三男は、その著『フェイルセイフ神話の崩壊』(技術と人間、1989年)でこう話している。
「(ウランの)濃縮度を少なくしておくのは何が目的かというと、プルトニウムをとり出すためです」「割合早く燃料棒を交換しながらプルトニウムを精錬してゆく。そのプルトニウムは何の目的であるかなんていうことをいろいろ議論して、一つは高速増殖炉のためであるとか、もう一つは原爆用であるとか」「原爆の方が手っとり早い話でしょうね」「核兵器と原発は一卵性双生児だということ。原発というのは、原水爆保有国が付随的なものとしてつくりだしたものなんです」。
核兵器から生まれた原発がプルトニウムを生み、それを精錬して核兵器を拡大再生産するということだ。いうまでもなく、鍵は使用済み核燃料にある。
11年10月29日、民主党政権は福島第一原発事故の汚染廃棄物に関する中間貯蔵施設の工程表を公表した。「2012年度中に中間貯蔵施設の建設地を決め、2014年度に県内で発生した土壌などの廃棄物の搬入を開始。中間貯蔵は30年以内で終了させ、その後、県外で最終処分する」という。
しかし、安心して封印できる放射性核廃棄物の「最終処理場」は現在、世界中のどこにもない。人類の科学は、半世紀にわたる核技術研究を経た今も、その危険性をなくす技術どころか、封印する場所さえ見出せないのだ。ガラス固化体技術で固めても、地層最終処分の技術がなければ結局、問題は解決しない。にもかかわらず、最終処分する「県外」とはどこか? 汚染された瓦礫の“中間貯蔵地”が結局は最終処理地になるかもしれないことを、もはや誰もが予測している。
一方、使用済み核燃料をリサイクルする目的で建設されたのが、青森県でいまだ試運転中の「六ヶ所村再処理工場」や、相次ぐ事故で停止中の高速増殖炉「もんじゅ」と「常陽」だ。再処理工場は原発の使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出して再び核燃料へと加工し、高速増殖炉はプルトニウム239を作り出して核燃料サイクルを実現するという構想である。前者は、もし再び巨大地震に見舞われて福島第一原発と同じ事故がそこで起きれば世界中の人々が被曝するほどの核廃棄物を抱え、今現在も放射性核廃棄物を撒き散らしている。後者は、事故後に停止したまま「夢のサイクル」だけが唱えられ続けている。いずれも政府と電力会社が説明してきた役割を果たさないまま、貪るように莫大な税金や電気料金を喰らい続けている。
六ヶ所村再処理工場は、使用済み核燃料プールの最大貯蔵量3000トン、年間処理能力800トンとされている。根強い反対運動でまだ工場は本稼働していないが、燃料プールはすでに満杯だ。国内の原発から吐き出される使用済み核燃料は年間1千数百トン。処理施設が足りないのである。これまで再処理を依頼してきた英仏からは、固形化された核物質が送り返されてくる。しかも、福島第一原発のプールにも3000体以上の核燃料が保管されている。最終処分場もなければ再処理工場も稼働できず、高速増殖炉のサイクルも機能しないということだ。