なぜ「自分は運転が上手い」と過信するのか
運転免許証を返納しない高齢者に理由を聞くと「代わりの交通機関がない、または不便だから」と答える人の割合は46.3%にも上ります。これは難しい問題であり、家族が代わりの交通機関を準備しない限り運転免許証を返納しにくいのは事実です。一方で、「運動能力の低下は感じているが、運転免許証を返納するほどでもない」という回答が57.4%を占めています。
つまり、他の移動手段がないからやむを得ず運転している人より、自分は免許返納するほど衰えていないと思っている人のほうが多いのです。そもそも、若い人より高齢ドライバーのほうが「自分は運転が上手い」と思っています。なぜでしょうか?
研究では高齢者のほうが、有能感が高いということが報告されています。もっと言うと「(本当かどうかは別として)自分が有能だと思っている人のほうが長生きする」ということがわかっています。自分が有能だと思っている人は社会とかかわる機会も多く、孤立しません。ポジティブに人生を過ごすことができるので、結果的に長生きしやすいわけです。
しかし、有能感が高く自分を過信する人ほど問題があります。転倒したり他人とトラブルを起こしたりしやすいのです。転倒は自分だけの問題ですが、事故を起こすと他人を巻き込むことになります。ドライビングシミュレーターなどで客観的な事実を提示しない限り、高齢者はいつまでも「自分は運転が上手い」と思い続けます。
そして事故を起こすのは勝ち気で攻撃的な人、というイメージがあるかもしれませんが、高齢者はそうとも限りません。高齢者の場合、むしろ安全に運転しているつもりでも周囲を気にするあまり処理能力に限度が出て事故を起こすタイプの人もいます。
こういった人に「気をつけて運転しましょう」とあいまいなメッセージを伝えても、むしろ逆効果になることがあります。実際にどういった場面が危険であるかを具体的に伝える必要があります。
高齢者は正しい記憶も間違った記憶も増える
高齢になると糖尿病や高血圧などの持病があるにもかかわらず「自分は健康だ」と思っている人が多くなります。それは記憶が改ざんされているからです。
高齢になると記憶力が低下するという話はよく聞きますが、それだけではなく記憶の改ざんも増えるのです。ある研究で若者と高齢者を対象に学習とテストのセットを5回繰り返して記憶が定着するかという実験が行われました。若者の場合は予想通り、繰り返せば繰り返すほど正しい記憶が増えて、間違えた記憶が減っていきました。しかし高齢者は違いました。正しい記憶は増えるのですが、同時に間違った記憶も増えていったのです。
糖尿病や高血圧の人は、病院で受診するたびに血糖値や血圧についての話を聞きます。けれども「今日は血圧がいいですね」「血糖値がいいですね」などと言われると、自分に都合よく「血圧はいい」という記憶の改ざんを行います。その結果、実は高血圧なのに、家族に対しては「血圧は問題ない」と言ってしまうケースが多いのです。