※本稿は、平松類『新版 老人の取扱説明書』(SB新書)の一部を再編集したものです。
高齢者は実年齢より13歳若いと感じている
高齢者は自分を若いと思っている。そう思うことはないでしょうか? 実際、高齢者と接している家族が「もう年なんだから……」などと言う時、本人は「まだまだ若い者には負けない」と思っています。さらには「自分は同年齢の人たちに比べてはるかに若い」とも認識しています。
研究によると、高齢者は自分を実年齢より13歳ほど若く感じているというデータもあります。もちろん、自分自身を若いと感じるのは高齢者特有の現象ではありません。
40歳を超えると実年齢より20%ほど若いと感じるようになるといわれています。20%ということは、40歳の場合、8歳若い32歳程度だと自覚している計算になります。70歳では、14歳若い56歳程度であると感じます。年を重ねるほど、実年齢と主観年齢の差が開いていきます。
「もう年なんだから」では通じない
理由には、まず時代の変化が考えられます。自分が子どもの頃の60代のイメージと、実際自分が60代になった時とでは、若々しさが違います。これは医療技術や食料・運動などの変化により、実際長生きになり健康的になっているということがあります。自分が子どもの頃見ていた高齢者と自分には差があるように感じるからです。
また、レイクウォビゴン効果といって、ほとんどの人は自分が平均以上であると思っていることも理由に挙げられます。つまりは実年齢の平均よりも自分は若々しいと思うので、まだまだ若いと感じてしまうのです。
そう考えると「もう年なんだから健康に気をつけないと」とか「そろそろ心配だから運転をやめたら?」と言ったところで通じないのも納得です。私は、70歳から80歳くらいの親を持つ外来の患者さんから、「親に車の運転を控えてほしい。そのことを先生の口から言ってくれませんか?」とお願いされることがよくあります。子どもが真正面から説得しようとしても、本人はまだ現役バリバリの気分ですから、聞いてくれるはずがありません。
しかし、年齢以外の理由があれば聞き入れてくれる可能性があります。私が「緑内障で視野が欠けているから運転するのは危ないですよ」と言えば、「病気だから仕方がない」と理解してくれることがあるのです。