■EV化によるCO2削減効果は思いのほか小さい

これは生産だけの話ではなく、実際の走行に使われる電気もカーボンフリーではないことを意味する。またリチウムイオンバッテリーはリサイクルの際に加熱処理が必要で、多くのCO2を排出する。

生産から使用、廃棄にいたるライフサイクル全体で見た場合の試算がいろいろ出ているが、概してみると、現状の発電構成でもEVのほうが一般的内燃機関車よりCO2排出量が少ないという結論が多いようだ。

どの程度削減できるのだろうか。EVSmartBlogというサイトが行った試算では、新世代ガソリンエンジンであるマツダSKYACTIV-X搭載車とテスラ・モデル3の比較で走行9万~11万kmでEVのCO2排出量が少なくなるとしている。

ボルボのEVブランド、Polestarも同様の試算をしており、現在の世界の発電状況ではEVがガソリン車を下回るのは11.2万kmとしている。ちなみに100%クリーン発電になっても、5万kmまではEVのCO2排出量のほうが多いという。どちらもEVに積極的な立場での分析の結果である。

最近の車は耐久性も向上し、10万kmどころか20万km近く走る例も少なくないようなので、長期的に見ればEVのCO2排出量が少なくなるのは間違いない。また、今後クリーン発電が増えればより短い距離でガソリン車と肩を並べるようになるであろう。

しかし思いのほか差が少なく、EV化によるCO2削減効果はそれほどでもないという見方もできないだろうか。

■「バッテリー性能問題」と「既存システムの進化の可能性」

さらに、バッテリー寿命は使い方によって大きく異なるため(急速充電が多いと寿命が短くなる)20万kmもつかどうかという問題もある。もし10万km程度で交換ということになれば、CO2削減効果はチャラになってしまう。そもそも日本では、13年以上の古い車は重課税がかかるので、10万km走る前に廃車になってしまう車が依然として多いのだ。

またテスラのような大型バッテリーを搭載した車は、バッテリー保護のため空調機能を搭載している。これは駐車中にも動作することがあり、車を一切使っていなくても一定の電気を消費している。

テスラの場合、さまざまな情報を総合すると1日あたり1~4%の電力を消費するようだ。つまり、乗らなくても25~100日放置すればバッテリーは確実に空になる。これは内燃機関にはないエネルギー消費で、この点も考慮する必要がある。

一方で内燃機関も効率を上げており、ハイブリッド機構と組み合わせた場合、たとえばトヨタ・ヤリスは実際の走行でも30km/Lを超える数字を出しているようである。

上記ライフサイクル比較ではガソリン車の燃費を15.3km/Lと仮定しており、それより2倍燃費が良いHVとの比較なら、EVは20万km程度でようやくガソリン車を越えることになる。もちろん、サイズが異なるテスラ・モデル3とヤリスハイブリッドとの比較はフェアではないが、現在モデル3は最も電費の良いEVなのである。

これらの事実から考えると、さまざまなデメリットのあるEVを普及させる価値があるのかと疑問がわいてこざるを得ない。一方、HVなら、通常のガソリン車とまったく同じ使い勝手で使えるうえ、バッテリーは小さくて済むので価格の上昇もそれほどでもなく、バッテリー廃棄の問題も少ない。そして、SKYACTIV-Xのようにまだまだ内燃機関が進歩する可能性も、HVシステムがより効率化する可能性も残っているのだ。