天皇不在となれば国政に大きな影響が出る

ところが法律の公布の場合は、天皇が公布しないと現実に法律の効力が発生しないのです。

もちろん法律自体は国会が作ります。その効力を発生させるには、天皇による公布が必要とされています。

例えば多くの法律では、「この法律は、公布の日から起算して○○日を経過した日から施行する」などと決められています。

つまりせっかく国会が法律を作っても、「公布の日」が決まらないといつから施行されるのか決まらない構造になっています。

この「公布」を行うのが天皇の役割なのです。

天皇が自分の判断で法律の公布を拒否する権限を持たないのは明らかです。

仮に(強引に)公布をさぼったり、何らかの物理的な支障で公布ができない事態がしばらく続いたら、法律の「公布の日」がしばらく決まらず、施行できないことになってしまいます。

国会の召集も同じです。国会の召集の「決定」をするのは内閣とされています。その決まった召集という行為を実際に行うのは、憲法の条文では天皇しか存在しません。

国会議事堂
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内閣総理大臣や衆議院議長が勝手に国会を召集することはできないのです。

ここでも仮に天皇が仕事を拒否したら(または仕事ができない事情が突然生じたら)、国会の召集はできないことになってしまうのです。

公務をやらなくても国政に悪影響が出るわけではない

このように、天皇には政治的判断の権限はないのですが、何らかの理由で天皇が国事行為の仕事を行わなかった(行えなかった)場合、憲法上の規定の関係で、場合によっては国政に影響が出るリスクもあるのです。

なお、本当に天皇が国事行為を行わない(行えない)異例の事態がある程度続くようであれば、摂政または国事行為臨時代行をおくことで天皇の仕事を代行してもらって解決することが制度上は想定されています。いつまでも混乱が続くわけではありません。先ほど述べたように、この摂政や臨時代行の職務を担当するのも、皇族の仕事です。

これに対して、国事行為以外の公務については、そのような影響はありません。

天皇や皇族が各地を訪問して住民の声を聞いたり、文化やスポーツの大会に出席して挨拶をしたりすることで喜ぶ人は多いでしょうが、別にやらなかったとしても国政に悪影響が出るわけではありません。

そもそも憲法や法律にやらなければならない規定があるわけでもないし、国民が具体的に困ることもないのです。